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第80話《優しい気持ち》
12月なかば…。
みずきの住む小さなアパート。
外は寒々としているけれど、一人住人の増えたアパートの室内はいつもより温かく感じる。
「…狭いけど…」
お決まりの言葉を口にして、アキラを招き入れるみずき。
アキラは、その様子をみて、くすっと笑いながら部屋へと入る。
「わかってるって、懐かしいな、みずきの部屋…」
中に入って、ぐるり見渡すアキラ。
綺麗に片付いた、サッ風景な部屋。
「相変わらず、何もないな…」
ぽつりと言うアキラの言葉にみずきは…
「…すまない」
つい謝ってしまう。
「…いや、悪いって言ってるんじゃないんだけど…」
そう言いながら、部屋の片隅にある小さなキッチンへ足を進める。
みずきもついていく。
「えーと、冷蔵庫、コンロ、電子レンジ、ポット…、あっ!」
「えっ、な、何?」
アキラのひと言ひと言にドキドキなみずき。
何か気に入らないものでもあるのかと…。
そんなコトは気にせずアキラはマイペースに笑い言う。
「炊飯器がない…お前、どうやってメシ食ってんの?」
「…あ、あぁ…食事は、コンビニで済ますから…」
頷きながら答える。
「ふーん…」
アキラはそれを聞きフイに、無表情になる。
「あ、アキラ?」
どうしたのかと、慌てて名を呼ぶ。
「うーん…困ったな…」
少し表情を落とし、呟くように言うアキラ。
「…なにが?どうした?」
優しく聞いてみるみずき…。
アキラは息をつき、ぽつりと呟く。
「…お前の家、ハードル多過ぎ…」
「え…」
アキラのその言葉の意味が、分からなくて止まってしまう。
アキラは少し悩むように頭を傾げたが、決めたように話だす。
「でも…これから一緒に住むんなら、みずきにも分かってもらわないとな…オレの事」
「…アキラの事?」
真剣に問い返すみずき。
「そう、あんまり…病気のコト言いたくないんだけど、そういうワケにもいかないし…とりあえず、聞いて…」
瞳をあわせそう言ってくる。
みずきは、うんうんと頷く。
「…えっと、まず…コレ」
指差した先にあるもの…
「…冷蔵庫?」
少し古いタイプだがなんの変哲もないただの冷蔵庫だ…
「うん、開けてみて?」
みずきに指示する。
「あぁ…」
言われた通り冷蔵庫の扉を開けるみずき。
すると、アキラはパタンと閉めてしまう。
「?」
アキラの行動を不思議に思う。
「みずき、手、出さないでね」
そう伝えると、アキラも冷蔵庫を開けようと片手を伸ばす。
アキラは扉を開けようと腕を引くがびくともしない…
アキラは、やっぱりという感じで、トッテを両手で持って力一杯引く。
「ふっ!」
かけ声と一緒に冷蔵庫の扉は開いた…。
「ッ!開いた…ハァ、ッ」
そう言って息をつく。
少し嬉しそうだ。
それを見ていたみずき…
アキラの手を握ってしまう。
アキラは瞳を上げて話だす。
「…わかる?みずきにとって何でもない事でも、オレには、冷蔵庫ひとつ開けるのも大変な事なんだ…」
教えるようにみずきに言う。
「あぁ、気付けなくてごめん…」
アキラの事なのに、何ひとつ分かっていない。
「ううん、気付かなくて当然だと思うよ…だって、普通のコトだもんな。だからウチの冷蔵庫、プッシュ式だったろ?」
「そう言えば…」
思い出しながら頷く。
「ついでに、色々言ってもいい?」
すっと聞いてくるアキラ。
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