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第81話
「あぁ、教えてくれ…分からない事ばかりだから…」
アキラの事をもっと知って、サポートできるように…。
「ありがと、ん、じゃ…この水道、蛇口ヒネって水出すやつだよね、コレもけっこうツラいかも…」
「あぁ…」
みずきは、置いてあったメモ用紙にアキラの言った事を書いていく。
「なんでメモってんの?」
そう首を傾げ聞いてくる。
「忘れたらいけないと思って、それに直せる所があるならすぐ使い安いように直そう…」
微笑みながらみずきはアキラに伝える。
「みずき…」
「アキラが使いにくい家じゃ、俺も嫌だから…」
「…みずき、ありがと…」
アキラはみずきの優しさに、喜びと…少しの痛みを感じる。
オレの事を一番理解しようとしてくれるみずき…
どこまで…理解してついてきてくれるのだろう。
言葉と実際は違うから…
その考えを振り払うように軽くキスを求めるアキラ…
みずきはそれに応えてくれる。
優しく触れる…唇と唇…。
みずきの温かさが伝わってくる…
触れてくれる指ひとつひとつで、オレを大切に想ってくれていることを実感する…。
「…俺は、アキラと同じ目線で、まわりを見ていきたい。アキラがどんな事に喜んで…どんな事が悲しいのか、分かるように…」
瞳をあわせ、そう伝える。
「…うーん、それは、けっこう難しいぞ?オレ、ヒネくれ者だから…みずき、付いてこれるかな…?」
冗談ぽく言い返してみるアキラ。
「大丈夫…意地でも…」
ついていく…と、微笑むみずき。
自然とアキラも笑顔になる…。
「ふっ、みずきの意地って、けっこーすごいもんな…」
「あぁ…」
みずきは、自分でも頷いている。
ふと、無意識に息をつくアキラ。
「アキラ…?平気か?立ちっぱなしは、しんどいんじゃないのか?」
家に来てからかなり経つが、座ろうとしないアキラを気遣う。
「ん?平気、立っとくのは…そんなに辛くないから。それよりも…」
「それよりも?」
オウム返しに聞くみずき。
アキラは、フト話題を変えるように、口調を変える。
「なぁなぁ、みずきに、お願いあるんだけど…」
頼み口調で聞いてくる。
「え、あ、あぁ…アキラの言うことなら、だいたいは聞くが…」
何のお願いだろうと耳を傾ける。
「あのさ、この部屋に色々持ち込んでもいい?」
「持ち込む?アキラの物なら、どんどん持ってくればいいよ…」
そんな事かと安心する。
「でも…大きい物なんだけど、ベッドとかソファとかテーブルとか…」
「あぁ」
いいよ、と言うように頷くみずき。
「…ここ、そんなに広くないじゃん…オレの物、持って来たらみずきの家具を追いやってしまうし、ジャマになんない?」
珍しく低姿勢なアキラ。
不思議に思ったが、みずきには、それも可愛く写る。
「アキラの必要な物なんだろう…なら、ジャマになんかならないよ。俺の家具は、あっても無くてもいいような物だから、気にしなくていい…どうした?」
アキラらしくないよ、と意味を含んで聞いてみる。
「…うん、いやね、オレ住むには、けっこう変えなきゃならない事あるだろ?面倒だし…やっぱり、出て行って…」
アキラのその言葉を聞いて、はっと、みずきの顔つきが変わる。
「アキラっ!」
声を大にして呼んでしまう。
「っ…みずき!?」
驚いている間に、みずきにキツく抱きしめられていた…。
「その…選択肢だけは消してくれ…」
静かに、アキラを抱きしめる腕の力を抜いて…優しく言葉を放つみずき。
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