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第84話《大切なひと》

アキラと出会って数日… ルードは、不良仲間たちと別れ、午前4時頃ようやく帰宅… 友達の親が管理するアパートを一部屋借りて住んでいる。 「はぁ…」 布団に身体を横たえるルード…ため息が漏れる。 中学一年生のルードだが… 最近は学校にも行けず、夜になると同じ境遇の仲間とつるんで、自棄になって、いろんな悪いことをやって…暇をつぶして、なんとなく日々を暮らしていた… そんな生活… 楽しいわけない… でも、何でも縛り付けて個性をつぶす傲慢な先生のいる、あの中学には戻りたくないし… 自宅には居場所がない… アキラの所にも今更戻れない… 他に行く場所がないから… 「……」 反抗心から…アキラから手渡されたものをまだ開封出来ていなかったルード… あの日みた… 痛々しいアキラの姿が頭から離れない… あの笑顔… その唇から零れた言葉… ――今の生活から抜けたくなったら―― ――絶対不利にはならないから―― あんなに、怪我を負ってまで俺に何を… アキラは… 「……」 そう思いながらゆっくり起き上がる… アキラの想いを知るために… 反発する心を抑え、ルードはアキラがくれた袋をそっと開封してみる。 中には… 手紙と、どこかの学校のパンフレット… さらに銀行の通帳とカード… ルードはそっと手紙を開いてみる。 綺麗な字… アキラの字… ――ルードへ。 久しぶり、これを見てくれてるってことは、上手く渡せたってことだから、良かった。 まず、ルードにはお礼が言いたかったんだ。出て行ってから全然会えなくて、伝えることができなかったから。 オレと一緒に住んでくれてありがとう。お前と過ごした2年間はオレが生きてきた中で一番楽しい時間だった。 お前がいなかったら、きっとオレはこんなに頑張れなかったから、傍にいてくれてありがとう。 それから… ルード、本当に今の生活が幸せなのか?本当にそれでいいのか? 前、オレに話してくれたよな、ルードの夢。『料理を教える先生になりたい』って、その夢を叶える為には、今、この時間を無駄にしちゃいけないんだ。ちゃんと中学で学ぶことを学んで卒業して、高校に行って、大学に行って…夢を叶えるための基礎をちゃんと作らないといけない時期だから… ルードの大切な時間を無駄に使ってほしくない。 今の中学に行きたくないのは分かってる、だからルードに合った学校、紹介するから、パンフレット見て考えて、今しかできないことがあるから…それをそこで学んで欲しい。 通帳にはその学校に通うための学費と必要な雑費がまかなえる金額を入れてるから、ルードの未来のために使ってな。 幸せな時をくれたルードにオレなりの礼のつもりだから、何も気にしなくていいから。 それでもオレに借りを作りたくなかったら、出世払いってことで、ルードが先生になったら返してくれたらいいよ。 暗証番号はお前の誕生日な。 ルードの為の金だから、どんな使い方をしてもいいけど、オレはルードが立派な先生になれるのを信じてるから… もう一度、自分の人生考えて、自分に責任持って生きてほしい。 ルードなら出来るから。 頑張れよ! 最後に、オレは、お前のことこれからもずっと好きでいるから、味方でいるから、気持ち悪いだろうけど、遠くからお前のこと応援してる。 立派になって、オレを見返してみろよ! じゃ、元気でな。 楠木晃―――。 「アキラ…」 その内容を読んで、胸がキュッと苦しくなる… 静かにパンフレットを開いてみるルード… 「インターナショナルスクール…」 そのパンフレットにも注意点や情報がアキラの字で書き込んである。 こんな…俺の為に… 「……アキラ、ごめん」 ここまで考えてくれてたのに… アキラにあんなに冷たく接してしまった… アキラを突き飛ばして… 怪我させて… 「ッ…」 アキラに謝らなきゃ… それで会って話をしないと… アキラがしてくれたこと、ありがとうって伝えないと… 俺がどうしたいのかも伝えて… 一方的なのは嫌だから… アキラに… ちゃんと伝えたい… そう、アキラに会いに行く決意を固めるルードだった。 《大切なひと》終

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