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第85話《複雑な想い》
寒さが身にしみる12月なかば…
みずきのアパートに新たな住人が住みついて一週間。
みずきの最愛の人…楠木アキラだ…。
アキラが来てからは、みずきの部屋の様子はガラリと変わった。
アキラ用の小型冷蔵庫、ソファやテーブル、ベッドやクッションまでいろいろ家具が増えた…。
間取りが1DKのみずきのアパートは、少し手狭になったけれど、2人しかいないこのアパートにはちょうどいい。
アキラが使いにくいと言った水道も管理人の許可を得て付けかえた。
情けないことに費用はアキラもちだったが、アキラは気にしなくていいと言ってくれる。
アキラのために使える金がないのが辛い…
みずきは仕事帰りでバイクを走らせながら思う。
もっと、働いて稼がなくては…。
でもやはり、家に帰るのが前より倍以上楽しみになった。
誰も返事のなかった部屋に…『おかえり』と声をかけてくれる人がいるから…。
職場より家に居たいと思ってしまう。
仕事の引継ぎなどをして、業務終了時間からいつも30分ほどかけて、自宅へ帰るみずき…
現時刻は、夕方5時30分だ。
「…ただいま」
部屋に入ると暖房がかかっていて温かい。
「あ、おかえりー、みずき。お疲れ!」
玄関にいるみずきに気付き、いつものように答えてくれるアキラ。
制服姿だ…
アキラは今高校3年生で、すぐ近くの高校に歩いて通っている。
普通は今、試験休みらしいのだが、アキラは最近学校に行っていなかったため試験を受けれていないらしく、追試のためだけに行っている。
「あぁ、アキラこそ、学校から今、帰ったのか?」
「そう、少し前…ふぅ学校は疲れる。センセたちいなくて試験だけやってくれたら楽なのにな…」
溜息まじりにそう呟く。
「何かあったのか?」
アキラが学校でどういう生活を送っているのか…気になるところだ。
「別に変わったことはないけど、オレの事を特別扱いする奴らばかりだから…特にセンセとかさ、もう、気疲れする」
やれやれ、といった感じのアキラ。
みずきはソファに座っているアキラの隣へと座る。
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