93 / 213

第93話

ルードは、そのまま行こうとして、また戻ってくる。 「アキラ!」 「え?」 何?と見返すアキラにルードは、身体を寄せ、軽くキス…。 一瞬その場の時が止まったような感覚のアキラ…。 唇が離れて瞳が合う。 「…ルード」 驚きで名を呼んでしまう。 「イロイロごめん、それから、ありがと!じゃーなっ」 そう言葉をかけ、走って帰っていくルード。 その姿が見えなくなるまで、そこから動けないアキラ…。 …ルード、だよな…信じられないほど動揺している自分… …ルードからのキス。 嘘じゃない…。 この数ヶ月の間、話す事すら出来ず…空白の時間に色々、考えて自分なりに区切りをつけたつもり…これまでの事も、これからの事も…。 それでも、こうしてルードが会いに来て笑いかけてくれると、心が揺らぎそうになる…。 少しくらいいいかも…と、会うだけなら、勉強を教えるだけなら、いいよな…? 誰に向かってでもなく自分自身へ、そう問ってみるアキラ。 みずきの所にだっていつまで居れるか分からないんだから…。 いいよな…? 普通に生活している分には、発作も起きないし… 走ったりしないかぎりマヒも起きないから病気は隠せるし… みずきは…、またみずきには、我慢させてしまうのか…みずきはオレの病気の事を全部知ってる。 だから、今、オレと居ることを強く望んでいるんだ。 「…はぁ」 深い溜息をついてその場に座り込むアキラ。 混乱してる… 自分を落ちつかせようと戸にもたれる。 もう、振りきったハズのルードの登場に…言葉の意味に、動揺してる。 「…一緒に住めとかって、好きだって…」 思い出して心が高鳴るのを感じるアキラ。 「マジ、オレ…」 一瞬なにも考えられなくなって… みずきや、病気のコトも忘れて、ついて行こうと思ってしまった。 「ヤバイよな…」 大好きな存在に…そんな事言われたら… あんな優しいキス…されたら…。 自分の心の想いを消しさるように、頭を横に振る。 ダメだって、ルードへの想いはもう捨てなきゃならない、欲は出さないから… (な、会ってもいいよな…みずき…) 貴重な時間… オレのわがままだから…。 座ったまま戸へ寄りかかり、心で家の中にいる人物に呼びかける。

ともだちにシェアしよう!