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番外編 藜の苦悩

これはまだ藜が現役の頃の話 今から100年以上も前の事で 藜は当時討伐隊の主力として活躍していた この頃藜は妻を無くし息子、柾からは仕事ばかりで妻の傍にいなかったと責められ絶縁状態 そして今は仕事だけが藜の全てだった 今回任務で来ているのは小さな田舎村 ここらでは変な噂が広まっていた 血を吸う鬼が出ると……… まだ吸血鬼と言うものの認識が薄いこの日本 ここでは吸血鬼を鬼と認識していた そしてその鬼が夜な夜な人を襲っては血を吸っていると言う 本来なら先に先遣隊が来るはずだったのだが生憎人手が足りないらしい だからその噂を頼りに近くに任務に行っていた藜達はこのへんぴな村へ立ち寄ったのだ 「さてどうするかな?」 この軍服のような制服の出で立ちをした藜達に村の人々は好奇の目を向けている 中には露骨に嫌な顔をするものがいる そりゃそうだ 行きなりやって来たかと思えば彼らにとって奇妙な格好をした者がやって来たのだから 鬼退治と言っても信じてはもらえない 「先ずは村長と話がしたい 呼んできてはもらえないだろうか?」 「なんだ貴様随分と図々しい 先ずは何者か示してから言え」 「おや、それもそうだ 申し遅れた 私は藜、聖城藜と申します 鬼退治にやってまいりました どうぞお見知り置きを……」 丁寧に名乗った藜だったが村の人々はまだ納得していないようだった その様子に藜は苦笑いをする どうしたものかと悩む すると村の人々がざわつき始めた 「皆の衆静まれ」 「!?」 村人が間を開けその間から出てきたのは初老の男性だった 彼は藜の前に出てくるとじっとまるで睨むように見てくる 「聖城と言ったか 私がここの村長だ」 村長の川村正蔵 まだ村長になって一年ほど 前村長であった彼の父が亡くなり跡を継いだのだと言う それでも村人の信頼は絶大なようで彼が通ると道が開く 藜は先ほど村人に説明したように村長にも同じように説明するがその間の村人の視線が痛い やはり説得するのは無理なのかと思ったのだが…… 「分かった ならば宿はこちらで手配しよう」 「村長!!」 「仕方なかろう これ以上鬼の被害を増やすわけにはいかん それとも鬼の餌になりたいか?」 「……………」 意外だった 案外物分かりのいい人物なのかと評価が変わる

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