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番外編 藜の苦悩④

ここには医者を必要とする人々がいる それに久木は本当にお金を払えないものからは金は取らない その代わり畑でとれた物を少し貰ったり…… だからこそここの人に慕われている もし彼がここを去ればどうなる? ここの村に代わりは来るだろうか? 「ところで久木君 そんな少量の血で足りるのかい? と言うか今回の鬼騒動に君はどう思う?」 藜はお前が犯人ではないかと確信をつくようにズバリと久木に聞いた しかしその質問にも久木は動じなかった 「言っときますけど僕ではありませんよ? あんな村人が死んでしまってもおかしくない量を襲ってまで飲みたいと思いません」 「そう……」 彼はそう言うけれどそれを鵜呑みにすることはできない しかしながら彼が嘘をいっているようにも思えない 引き続き藜は彼の監視をすることにした それにしても彼が抜き取った血はそう多くない そんなもので足りるのだろうか? 自分ならば足りなくて喉が渇くだろう それなのに彼は平然としている 吸血鬼にも差があるのだろうか? 「君、血が足りないなら分けてあげるよ 同じ半吸血鬼のよしみだ」 すると彼の目がぐらっと揺らいだ やはり我慢していたようだ 藜が近寄っていくと久木は唾をごくりと飲んだ そしてすがるように藜の首に手を差しのべる 久木の目は赤く染まり藜の首筋へ牙を突き立てた 「ん……」 久木は藜の血を飲んでいく 暫くしたところで久木は藜から離れ すみませんと謝った それに久木の表情は曇ったまま 藜の血を飲んだことに罪悪感があった それでも吸血を止められなかった事に申し訳ないと謝ったのだ 藜はそんなこと別にいいのにと笑ったが 久木はうつむいてしまった 「君が望むなら協会で働けるように掛け合ってみるけど? そうすれば血は協会から提供してもらえるし 医師としての腕はいいようだから重宝されると思うが?」 「お話しは嬉しいのですがお断りさせていただきます 僕はどうしても必要とされる所に、医者がいないと言うところに行きたいのです 助かる命を助けられないのは嫌ですから」 「……そう」 彼の考えは立派だ 医者として患者のことを最優先で考える それは端から聞けば至極まっとうな考えだと思うがはたしてそれでやっていけるだろうか? 事実彼はずっとこんな生活を続けていて 血を得るのも一苦労 この方法ではいつ血が足りなくなってもおかしくはない 最悪理性を失いただの化け物となってしまう それだけは何としてでも避けたいと思った

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