19 / 135
第19話
今日の昼休みの後の授業は体育だ
陽が一番きつい時間帯でしかも外で体育祭の練習
陽光が苦手な浬はこの日も保健室で休むことにした
多分体育祭当日も欠席するだろう
保健室は消毒液や血の臭いで充満しているが昨夜よく寝たお陰で体調も良いため臭いに当てられることはないようだ
しかし一時間弱、なにもすることがなく暇だ
いつもベッドで寝てこの時間を過ごしていて
今日もベッドに横になる
けれど体育祭の練習ともあって外が騒がしく眠れない
浬は眠るのを止めただボーッと天井を見つめる
すると保健医の先生が浬の元へやって来た
「具合とかどう?
大丈夫なら本でも読んでていいのよ
退屈でしょう?」
「はい……」
確かに何もせず過ごすのは実に退屈だ
本でも持ってくれば良かったが生憎忘れてしまった
浬は起き上がり窓から体育祭の練習の様子を見る
陽光が何ともなければ病弱なんて嘘もつかずに参加できた
別に陽光に当たったからと言って死ぬわけじゃない
ただこの時間帯特に眩しくてずっとは目を開けていられない
だから体育となると色々きついのだ
そのまま暫く外を眺めていると八尋の姿を目で捉えた
「八尋………」
ぼそっと彼の名を呼ぶ浬の声は虚しく保健室に消える
リレーの練習をしていたようで八尋はバトンを持ってクラスメートと和気あいあいと話している
楽しそうに笑うその表情は決して浬には見せないものだ
その様子を見ていると一人の女の子が転んだようで膝から血を流しているようだった
すると八尋はすぐさま駆け寄り彼女をおんぶして運んでいる
もしかしてここに来るだろうか
いや、怪我をしたのなら絶対来るだろうと少し焦った
そうこうしてるうちにドアがノックされ八尋と彼におんぶされている女の子が入ってきた
「すいません先生、こいつ怪我して」
「あらあら大変こっちいらっしゃい」
八尋は浬に気がつき一瞬彼を見るがすぐに目をそらし女の子を椅子に座らせた
そして先生は消毒液を持って女の子の元へ行く
「少ししみるわよ
ふふ、おんぶして運んでくるなんて優しいのね」
「………別に普通です」
先生が八尋にそう言うが彼は少し仏頂面になる
誉められるのは照れ臭いようだ
浬がじっとその様子を見ていると八尋と視線が合った
「ぁ………」
何か話したいが何を話していいか分からない
そうしている間に手当てが終わり女の子は暫くここで休むようだ
一方八尋は体育祭の練習に戻ろうと保健室を出た
浬は何か八尋と話したいと彼を追った
「八尋!!八尋待って!!」
小走りで追いかけ八尋の背中が見え肩を軽くポンと
叩くとバシッと振り払われた
「触るな!!」
「ご、ごめん………」
「………っ
悪いけど俺に関わらないで欲しい」
「ごめん……」
関わらないで欲しい、八尋はそう言って浬の所から去って外へと戻っていった
浬は八尋が見えなくなるまで見つめていた
はたかれた手はじんじんと痛む
だが浬には手よりも心の方がずっと痛かった
あんな風に拒絶されると自分すらも嫌いになる
「ふ……ぅ…あ………」
何故吸血鬼の血が自分に入っているのか
どうして人として生きていけないのか
涙が溢れて止まらなかった
ともだちにシェアしよう!