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第45話

八尋はルシェルに畏怖の念を感じた 兄を殺した吸血鬼とも今彼が殺した吸血鬼とも違う 圧倒的な威圧感 一体彼は何をしに来たのか、何故同じ吸血鬼の彼を殺したのか、しかし問おうにも恐ろしさのあまり八尋は声が出ない ルシェルは持っていたハンカチで手に付いた血を拭うと倒れている浬の所にしゃがんだ 彼の胸から流れ出る血が浬を抱える八尋にも伝って血塗れになっている それでも流石吸血鬼と言うべきか何とか生きているようだが今にも消えそうなほどに息が弱い 「仕方のない子だ……」 ルシェルは自分の腕を噛みきり血を吸う そして八尋から浬を奪い彼に口移しで血を飲ませた すると傷はみるみる塞がっていくではないか 吸血鬼の血には不思議な能力(ちから)がある このように癒しの効果を発揮したりする これが吸血鬼と言う化け物だ そんな彼が浬に自らの血を与えた 浬を助けた?何故?八尋は混乱した そしてルシェルは八尋の腕の中にいる浬を抱き上げ八尋から背を向ける 「お、おい……そいつをどうする気だ?」 震える声をなんとか絞りだしルシェルへ問いかける ルシェルは顔だけ振り返らせ睨むように八尋を見る そんなルシェルの目に気圧される 「………君はこの子の何?」 「??」 突然ルシェルから問われ質問の意味が分からない八尋は頭に?を浮かべている そんな八尋にため息をつき八尋へ向けられた視線を外し前を向く 「君がこの子にとって必要な存在なら何も言わなかったんだけど君は浬には要らない存在だ ここにいると浬はどんどん壊れてしまう」 「………っ」 確かに八尋が来てからと言うもの浬の心が休まる時があまりなかったかもしれない その事に八尋は反論出来なかった 浬がこんな怪我をしなければ浬が醜い吸血鬼だからだと言い訳を言っていたかもしれない けれど今自分を庇って死にかけている彼を見て八尋の心は揺れていた 「ま、この子が悲しむから殺しはしないけどな 浬に感謝しな」 ルシェルはそう言うと歩き出した 「お、おい待て 何処に連れていく??」 「お前には関係ない この子は俺のものだ」 「なん……だと……」 ルシェルは八尋を無視し歩いていく それを追いかけようとする八尋だが脇腹に受けた傷のせいで立ち上がれない それどころか血が溢れだしどんどん気が遠くなっていく 「クソッ……………」 そして気を失って行く中誰かが大丈夫かと しっかりしろなど聞こえたがその声に返事する気力は残っていなかった………… ルシェルは気を失っている浬の額にそっとキスをし独り言を呟く 「折角忠告してあげたというのに…… 君は俺と一緒にいればいいんだよ そうすればこんな思いをせずにすむ………」

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