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第61話

あれは遠い過去 忘れたいけれど忘れられない そして藜と出逢えたきっかけ……… 「ほら、食え」 鉄格子の外から綺麗とは言えないような皿に何の食べ物なのかも分からない物を乗せられたそれを皿が入るくらいの大きさの扉から入れられる そしてそれをすがるように手に取り貪りつく小さな男の子を嘲笑うように鼻で笑う男がいる そんな男の口からは鋭い牙が垣間見える そう、彼は吸血鬼だ 「本当に穢らわしい…… 何故ヴァイド様は人などと交わられたのか…… ヴァイド様は我々にお前を渡し眠りにつかれた お前をどうしろとも仰らなかった ヴァイド様のご子息もお前の話題には触れない…… けれど、ヴァイド様が何か言わないかぎり殺すことはできない 全く迷惑なものだ」 言うだけ言って男はこの地下牢から居なくなった しかし幼い浬には彼が言ってることが何の事かあまり理解は出来なかった それでも自分は半分吸血鬼で半分人間で吸血鬼からは嫌われているのだと言うのだけは分かった 浬は少ない食事をゆっくり、なるべくいつまでも終わらないようにちびちびと食べる それでも食事はすぐに無くなってしまった こんな少量の食事では腹は膨れない 毎日こんな感じでいつも空腹だった だから浬は自分の腕に牙を立て自分の血を啜っていた そんな事をしてもあまり意味は無かったが多少なりとも空腹はマシになった 一体いつまでこんなことが続くのか…… 終わりのない日々に浬の心は壊れる寸前になっていた ある日のこと、この日はやたらと血の臭いがする こう言うことはたまにある きっと吸血鬼達が血を啜っているのだろう 上から漂ってくる血の臭いに浬は当てられ理性を失ってしまいそうになる 血がほしい……… その欲望をかき消すように自らの腕に牙を突き立てる 自分の血を飲んでいるとこの地下牢へ続く階段から一人の吸血鬼が現れた そしていつものように小さな扉から食事を運ばれる ここに来る吸血鬼は毎回同じ人物ではない この吸血鬼は数度見た程度だ 「ほらよ、飯だ」 ご飯を牢に入れられそれに貪りつく 必死に食らい付く浬に男はクツクツと嘲笑う きっと男から見れば浬のその様子は犬が残飯を必死に漁っているのと同じように見えるのだろう 滑稽だと馬鹿にしているようだ いつもこんな感じなのだがこの日違ったのは 男がずっと浬を見ていたことだ 浬にはそれが奇妙だった いつもなら皆ご飯を運んだらすぐに立ち去るはずなのだ だから何かあるのではと警戒していた そしてやはり浬の思った通りだった 男の目は赤く染まっていたのだ

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