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第62話
男の目は赤く染まっていた
吸血鬼が血を求めるあの瞳だ
男は浬がご飯を食べ終わるとカツンと一歩牢に寄ると牢の扉の鍵をカチャリと開けた
そして牢の中に入ってきたのだ
男は無言で浬に近づきその場にしゃがんだ
それから品定めをするように浬全体を舐めるように見渡すとニヤリと笑った
浬はそんな男に何をしているのか分からずただ彼を見ていた
けれど血を吸われるのではないだろうかと怖くて怖くて気が気で無い
そして男は浬の腕を引き寄せた
浬はその勢いで前のめりになり片手を地面につける
男は浬の髪を鷲掴みにし顔を上げさせる
それに浬はうっと声をあげる
「旨そうだ
特にガキの血は旨いんだ
少しなら構わないよな?」
「…………っ!!」
浬は恐怖で声がでなかった
吸血鬼の真っ赤に染まる瞳が不気味で恐ろしく
今にも殺されてしまうのではと言う気持ちにまでなってしまう
そして男は口を開け牙を露にする
それを見て浬ははっとなり
このままでは殺されてしまうと必死に抵抗した
「嫌だ!!嫌、助けて!!」
誰にも届かないその助けを求める声は虚しくこの地下牢に響き渡る
子供の浬がいくら抵抗しようとも大人の吸血鬼に簡単にねじ伏せられ手も足でない
それでも牢が開いている今なら外に出て逃げられるのではと必死に逃げようとバタつくが無駄な足掻きだった
足掻くたび強く押さえつけられ身体が痛む
そして次第に抵抗するのも疲れてしまい
いつしか大人しくなっていた
「無駄なことを……
最初から大人しくしていればこんなに傷だらけになることもなかったと言うのに」
男は大人しくなった浬から手を離した
息をあげ手足を投げ今にも虫の息になってしまいそうになっている浬
そんな浬を男は無理矢理起こす
もう浬に力は残っていない
抵抗もできないまま恐怖の中男は牙を浬の首に突き立てる
そしてプツリと牙が刺さっていく
「ぁ………」
じゅるりと音を立てながら血を啜っていく
そして貧血からなのかただもう弱りきったせいなのか分からないが浬の視界が歪み霞んでゆく
もう死ぬのかと覚悟した
一度でいいから外に出て見たかった
もっと知らない世界を見てみたかった
彼らが話してた父親について知りたかった
けれどそれももう叶わない
どうして半吸血鬼と言うだけでこんな思いをしなくてはいけないのか
浬の目からは涙がこぼれ落ちた
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