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第63話
もう死ぬのかと涙がこぼれ落ちた
するとその時
カツンカツンと誰かが降りてくる足音が聞こえてきた
男は誰だと浬から離れた
何とか命だけは助かった浬
けれどもう起き上がる力は残っていなかった
そして男が牢から出たあとのことだった
何か様子が変だ
男がお前は誰だと、何しに来たなどと大声を出しているのだ
「何だ……こんなところにも吸血鬼がいるなんてね」
知らない男性の声がする
その男性は柔らかな声で抑揚がない
感情が読み取れなくて少し怖い
対する吸血鬼の男は声を荒らげ襲いかかる
しかし交わされバランスを崩す
もう一度攻撃をするも逆に腹を殴られ地面に伏せってしまった
そして男性は持っていた剣を腰の鞘から取り出した
ぶんと風を切る音をさせ男に近づいていく
「く、来るな……」
男は後退りし浬の牢のところまでやって来た
そんな男にじりじりと男性は近づいてくる
浬の牢のところまでやって来た男性は浬の方を見た
浬も力を振り絞って見ていた為男性と目が合った
「…………っ」
男性は綺麗な顔をしていて特段怖そうな感じではなかった
寧ろ優しそうな印象を受けた
そんな男性は怯える男に剣を振りかざし男の心臓を貫いた
「あああああ」
男は悲鳴をあげ血を流す
衝撃的な光景だが浬はそれに対しては何も思わなかった
それよりも男の流す血に反応してしまった
まだ1度も他人の血を飲んでいない浬にとって
手が出るほど欲しいものだった
そして牢まで流れてきたその血に触れ
口をつけようとする
「コラコラ、そんな粗末なもの口にするものじゃないよ」
男性は浬に近づき自らの血を流し飲むように促す
そして浬はその手を取り血に口をつけた
その味はとても美味しく夢中で飲んだ
「君、名前は?」
「………?」
「無いの?」
名前と言われても自分の名前なんて聞いたことなど無い
だから自分の名前がなんなのか知らない
すると男性は浬を抱き上げた
「僕の名は藜
お前の名は今日から浬だ」
「かいり……?」
初めて名前で呼ばれた
その事にぱぁと視界が開けた
嬉しかった
もっと呼んでほしいと……
「かいり……かいりかいり」
「気に入った?」
「うん!!」
こうして藜と出逢ったのだった
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