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第99話

八尋の首筋に牙を立てゆっくり彼の血を飲んだ 口一杯に広がる血の味 けれど今までとは少し違っていた 初めて飲んだ八尋の血はとても甘くルシェルよりも濃い味だった 人の血はそれほどおいしいとは聞いていなかった 寧ろ吸血鬼よりは味の質は落ちるとルシェルは言っていた だから何故八尋の血がこんなにもおいしいのか分からなかった 浬は夢中で彼の血を飲んだ 下手したら飲み過ぎて彼が死んでしまうのではと思うくらい でもそれでも止めることが出来なかった 「ん…はぁ……」 「浬、そろそろ……」 八尋に言われようやく我に返った 理性を取り戻した時にはだいぶ血を飲み過ぎていた 「ごめん……飲みすぎた ごめんなさい」 そう涙を流しながら謝る浬だが一向に赤くなった瞳は治まらない それに甘い血の匂いはまだ消えない それと八尋自身の匂いは凄く魅力的だ 浬は堪らなくなって八尋の喉に口付る そして傷つけないくらいに歯を立て噛む 八尋のいい香りが浬を包む もっとほしい…… 血ではなく八尋が欲しかった しかし浬はまだ八尋に恋愛感情を抱いていることには気づいていなかった ただどうしてこんなにも八尋が欲しいのだろうと…… 「浬……?」 浬の様子がおかしいと八尋は戸惑う 吸血鬼とはこんなものなのかと思ったが どうも違うように思える 「……っ!!」 するとようやく浬が八尋から離れた 欲よりも理性が勝ったようだ 「ごめ……俺なんかおかしい…… 八尋の血が凄く美味しくて…… そしたら八尋がもっと欲しくなっちゃって…… ごめん、俺おかしいよね」 「…………」 八尋は驚いた 浬がそう言う風に思っているなんて そして帳から聞いたことがあった 吸血鬼にとって好きな相手の血は甘美なのだと いや、まさかと八尋は否定した だってあれだけの仕打ちをしていながら浬が八尋を好きになる理由などないと思っているからだ だからすぐさまその思いは消した それでも夢中で自分の血を吸って美味しいと言った 本当に好意を寄せられているのではと焦った 確かに浬はいい奴なのだと思う しかし八尋としては恋愛感情を抱く以前に少し前までは憎しみの対象だったのだ だから戸惑っていた どうすればいいのだろうかと……… 「ごめん…何でもない 変なこと言ってごめんね」 「………」 浬は笑ってそう言った それに八尋は何も答えることが出来なかった

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