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第4話

 市川は食べ終わった食器をキッチンに運びながら、こんなことを言い出した。 「あ、そうだ。俺、今日陸上部の練習で夕方まで学校行かなきゃいけなくなっちゃったから、よろしくな」 「……え、そうなんですか? でも先生は水泳部の顧問でしょ?」 「そうなんだけど、なんか今日は顧問の先生が出張らしくてさ。それで代理を頼まれたんだ」 「代理ですか……。休日出勤とは、面倒ですね」 「まったくだな。今日は夏樹とずっとイチャイチャするつもりだったのにさ」 「……いや、イチャイチャはいりませんけど」  とはいえ、せっかく泊まりに来たのに留守番というのもつまらない話だ。部活動の監督も立派な仕事だから、わがままを言うわけにはいかないけれど。 「しょうがないですね……。じゃあ、おとなしく留守番しててあげますよ。その代わり、いずれ埋め合わせしてもらいますからね」 「おう、もちろん。なんでも好きなもん奢ってやるよ」  支度を整えた市川は「なるべく早く帰るからな」と言い置き、マンションを出て行った。 「……やれやれ」  戸締まりをした後、夏樹はリビングに戻った。  さて、どうするか。たいした勉強道具は持って来ていないから、あとは読書するかテレビを見るかくらいしかない。散歩がてら近所をブラブラするのもアリだが、勝手に出て行くのもなんだし……。 (……あっ、そう言えば)  あることを思い出し、夏樹はじょうろを持ってベランダに出た。  数週間前に植えた『○○の種』。あれは一体どうなっただろう。 (あ、芽が出てる)  植木鉢からぴょこっと可愛らしい双葉が生えていた。まだごく小さく、数センチにも満たない新芽だった。  それを見たら、ちょっと心が和んだ。これが成長したら一体どんな花が咲くのか、楽しみになってきた。 「早く大きくなれよ」  そう話しかけながら、じょうろで水をやる。  こうして何かを育てるのは小学校の朝顔以来だが、意外と楽しいかもしれない。これを機に家庭菜園でも初めてみようか。後で市川に必要な道具を揃えてもらおう。

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