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第12話
(先生……先生、助けて……お願い……!)
夏樹が心からの悲鳴を上げた、その時だった。
「夏樹! 大丈夫か!?」
市川の声が遠くに聞こえた。
意識が朦朧としている夏樹の耳には、それが本物か空耳かの区別もつかなかった。
「くそ……っ! なんだよ、こいつら! 夏樹から離れろ!」
ぐいぐいと絡み付いている蔦を引っ張られる。
だが複雑に絡んだ蔦は意外と頑丈で、市川の馬鹿力でもなかなか解くことができないようだった。
「ちっ……こうなったら……」
一端市川は夏樹から離れ、キッチンに駆け込んで行った。そして白い粉が入った袋を両脇に抱え、その中身を植物たちに向かって豪快にぶち撒けた。
次の瞬間、元気だったはずの植物たちが一気に力を失い、しおしおと萎れて床に落ちた。夏樹を持ち上げていた触手も次々に萎れ、フローリングに落ちていく。
市川はその後もひたすら白い粉を撒き続けた。パラパラと降り注ぐそれは、どの家庭のキッチンにもある調味料に似ていた。
ふたつの袋が空っぽになる頃には、枯れた植物たちが大量に床に積み重なっていた。
「夏樹! おい、夏樹! しっかりしろ!」
市川が自分を抱き起こしてくる。体液や精液でドロドロになるのもかまわず、心配そうにこちらを覗き込んでくる。
それを見たら、なんだか急に力が抜けてしまった。代わりに、いつもの安心感がじわじわと全身を満たしていった。
(……ったく、いつもながらちょっと遅いんだってば)
憎まれ口を叩いてやりたかったが、声を出す気力はなかった。
市川の腕に抱かれたまま、夏樹は気を失った。
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