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第7話 巣立ち

 その夜十万というお金を受け取った。その日から俺は権藤に飼われることとなった。  権藤の性癖は少し変わっていて。目を隠し、縛り上げ、自由を全てを奪われた相手が良いという。  日々慣らされていく身体から心は切り離した。  高校も卒業していない俺にできる事は限られている。  権藤に与えられる金で日々の心配もなく暮せるようになってきた。母親も少し安定を取り戻して来た。  抗鬱剤で上手くコントロールできているときは食事の支度も出来たし、近くのスーパーへの買い物も行く事ができた。不思議な事に自分の生活のお金がどこから出ているのか一度も聞いてこないが。  俺の身体に薄くついた縄のあとを見ても何も見なかったように目をそらす。  この人は弱い。それでも良かった、ほんの短い穏やかな時間だった。  それから五年と言う月日をただその日を生きる事だけを考えてすごした。  いつの間にか縛られる事も暗闇も自分を高めてくれるようになって行った。愛情はなくても何らかの情はそこに存在していた。  その日も脚を折りたたみ、左右に大きく開かれるように縛られた形で権藤の膝の上で踊らされていた。  「あ、正明さん。ん…もっと、もっと奥まで……い」  喜んでもらえるように強請る。仕事だから、そうこれは俺の仕事。  権藤に教えられたのは、快楽の得かただけでなく経済の読み方株の売買。情事の後にベッドで教えてもらう経済の話の方が、どれだけ刺激的で面白かっただろう。  「口座にいくらあるリュウ」  権藤に教えられて少しずつ運用してきたお金のことだろう。  「一千万くらいはあると思うけれど、なに?」  「リュウ、その金で私の会社の株を買え。三ヶ月後に化ける、上がったら即売り払え」  「それってさ……インサイダー取引じゃないの?」  くすくすと笑うが、権藤はいたって真剣だ。  「今まで、どれだけ会社に尽くしてやったか。最後に恋人に少しくらい美味しい思いをさせるだけだ、お前との関係は誰も知らないしな」  「んー?それってさ、俺って捨てられるって事かな」  「そろそろ潮時だろう、来月には孫が産まれる」  「そうか、おめでとう。明正さんがおじいちゃんなんて変だな」  「実感は無いがね。会社も引退までカウントダウンが始まった。もう人生やりつくしたよ、後は穏やかに過ごすさ」  俺にとって権藤は恋人というより父親に近い存在だった。抱かれなくなってもその縁は切りたく無いとどこかで思っていた。  五年半か……ここまで生きてくる事ができたのもこの人のおかげだ。  「ありがとう。今後の心配は、大丈夫。生きて行く術は教わったから。ありがたく手切れ金も受け取るよ。今後正明さんには関わるなって事だよね」  権藤は少し寂しそうに笑った。

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