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第8話 再会

     ホテルの出口まで権藤を見送った。権藤は決して一晩をともに過ごすことはない。家族の元へとかえるのだ。部屋は明日の朝までとってあるから、あとは一人でゆっくりと過ごす。  権藤の後に続いて、エレベーターから降りた瞬間だった。  「え……奏太?」  懐かしい声に呼ばれた。心臓が早鐘のように鳴り出し、身体中の血液が頭にのぼってくる。呼吸を忘れて酸欠になる。  何も聞こえなかったように、平静を装って振り返らず前に一歩踏み出した。  「奏太っ!」  聞こえない。なぜなら、その名前は過去の記憶と共に葬ったから。  「……リュウ、お前呼ばれているよ」  権藤が優しく笑う。  「正明さん、なぜ..….その名前を」  「その位は調べさせてもらっているよ。さよならリュウ、行きなさい」  それだけ言うと権藤はタクシーに乗って闇に紛れて消えていってしまった。  背中に強い視線を感じる。振り返ってしまえば、もう否定できない。あの声は忘れもしない、瑞樹だ。  動けない、そう思った時にぐいっと腕を掴まれた。荒く繰り返される自分の呼吸が、さらに速く荒くなる。  「奏太、今までどこに……」  振り返ってはいけないと解っていても、もうどうしようもなかった。ゆっくりと振り返ると、そこには背が伸びて俺よりいつの間にか大きくなった瑞樹が立っていた。  どう答えるのが正解かわからない、こんなところで話もできない。  「ついてきて」  手を引いてエレベーターに乗る。部屋には明らかに情事の後が残っている、俺を拘束していた縄も床に置いてあるだろう。  「初めまして、リュウと申します。一晩で七万になりますが、よろしいでしょうか」  部屋に入ると床に正座して頭をさげた。  「奏太、奏太何で……どうしてこんな事に」  別に身売りを生業とはしていないし、今後もするつもりはない。けれども、瑞樹には相応しくない人間に成り下がってしまった事だけは事実。  これで二度と会わなくて済む。    軽蔑して、俺を見限って出て行けば良い。  それで、全てが終わるはず。瑞樹にだけは会いたくなかった。  瑞樹を見て今でもあの時の気持ちが萎えていないことに驚く。駄目だ捨てたはずだ。  床に三つ指をついて正座する俺を瑞樹が見下ろしているのが解る。  ……瑞樹、出て行けよ。軽蔑しただろう。  これで二度と会わなくて済む。  「奏太……頼む、話をさせてくれ。あの時、どうして俺に何も言わずに消えた。話を……」  リュウとして生活してきた五年半が、あまりにも重すぎる。  ……奏太はもういないんだ。  瑞樹が動いた、帰るんだなと思った瞬間に驚くような言葉が聞こえた。  「解った、七万だな」  え……息が止まりそうになる。瑞樹、一体何をするつもりだ。  「待ってろ、すぐに戻ってくる」  そして、五分後目の前に一万円札が七枚置かれた。ここまで瑞樹が頑張るとは思わなかった。  仕方ない。  俺を抱いてみれば良い。  高校生の時の俺とは違う……それで全てが終わらせられる。

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