6 / 30

第6話 決心

   「お前、名前は?」  「リュウです」  「遊ぶ金欲しさか。まあ、良いだろう。お互いの利益が合致したという事だな。約束通り、ほら七万だ。ただし、これから先は俺の好きにさせてもらおう」  この人は、大手の製薬会社の社長だという。この人が男色家だと知ったらみんな驚くだろう。  俺はリュウと名乗った。セックスの時に俺の事を奏太と呼んで良いのは瑞樹だけ。  たった一晩で七万円、それが俺の値段。  権藤というその男は俺に白い錠剤を手渡してきた。それを飲めという。  一瞬怯んだが、もうどうとでもなれという思いがあった。俺が死んだら母親は、そのまま息絶えるのかなと考えた。考えるのも疲れた、今必要なお金がここにある。  ……それだけが大切。  錠剤が何の薬かも確認せずに、口に放り込むと飲み込んだ。  「飲んだ事があるのか?」  「初めてですよ。でも約束でしたからね、こちらからの条件は無しって」  「大丈夫、単なる筋弛緩剤だ。血流も増えるから楽しめるし、楽なはずだ。服を脱いでこちらにおいで」  少し痩せてしまった体を人前に晒すのは嫌だった。けれど、七万円・・・家賃が払える。  鞄から出てきた、柔らかい布で目隠しをされた。視覚を奪われ、身体中を確かめるように触られる。  ……気持ちが悪い。…吐きそうだ。  瑞樹以外に触れられるのは嫌だ。それでも背に腹はかえられない。  「お前身体売るのは、初めてか?」  小刻みに震えて、反応もしない俺の身体を見て権藤はそう言った。  「遊ぶ金欲しさで、身売りしているやつだと思ったが違ったのか。何の金が要るんだ?」  「あんたには関係ないだろう。俺がその金を何に使おうと。金払って俺を好きにすればいい。それだけの事だろう!」  「お前……何を焦る?そうか、クスリか?クスリに使うのか。だったらダメだ。今日の取引きは中止だ。目が飛んでないやつを拾ったつもりだったのに。外れたか……」  「違う、そうじゃない!家賃を払わないといけないんだ。俺は公園で寝起きしても良い……だけど、あの人には無理。だから……お願いします」  頭を下げる、自分を買ってくれと頭を下げる。こんな惨めな思いをするとは思わなかった。  「リュウ、本当に初めてなのか?」  コクンと頷くと、目隠しを外された。  「お願いだから、取引を止めると言わないでください」  「親は?」  親がいるイコール幸せ、養ってもらえるっていうのは成り立たない。  「親を養わなきゃいけない、だから……」  「二十一ってのは嘘だろう、お前本当はいくつだ?」  「じゅう……十八です」  「本当にまだ子供か、困ったな」  このままだと金はもらえない、そして住む場所もなくなるだろう……。  俺は跪くと目の前の男のベルトに手をかけた。  ……そう先に進むために。

ともだちにシェアしよう!