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第6話 決心
「お前、名前は?」
「リュウです」
「遊ぶ金欲しさか。まあ、良いだろう。お互いの利益が合致したという事だな。約束通り、ほら七万だ。ただし、これから先は俺の好きにさせてもらおう」
この人は、大手の製薬会社の社長だという。この人が男色家だと知ったらみんな驚くだろう。
俺はリュウと名乗った。セックスの時に俺の事を奏太と呼んで良いのは瑞樹だけ。
たった一晩で七万円、それが俺の値段。
権藤というその男は俺に白い錠剤を手渡してきた。それを飲めという。
一瞬怯んだが、もうどうとでもなれという思いがあった。俺が死んだら母親は、そのまま息絶えるのかなと考えた。考えるのも疲れた、今必要なお金がここにある。
……それだけが大切。
錠剤が何の薬かも確認せずに、口に放り込むと飲み込んだ。
「飲んだ事があるのか?」
「初めてですよ。でも約束でしたからね、こちらからの条件は無しって」
「大丈夫、単なる筋弛緩剤だ。血流も増えるから楽しめるし、楽なはずだ。服を脱いでこちらにおいで」
少し痩せてしまった体を人前に晒すのは嫌だった。けれど、七万円・・・家賃が払える。
鞄から出てきた、柔らかい布で目隠しをされた。視覚を奪われ、身体中を確かめるように触られる。
……気持ちが悪い。…吐きそうだ。
瑞樹以外に触れられるのは嫌だ。それでも背に腹はかえられない。
「お前身体売るのは、初めてか?」
小刻みに震えて、反応もしない俺の身体を見て権藤はそう言った。
「遊ぶ金欲しさで、身売りしているやつだと思ったが違ったのか。何の金が要るんだ?」
「あんたには関係ないだろう。俺がその金を何に使おうと。金払って俺を好きにすればいい。それだけの事だろう!」
「お前……何を焦る?そうか、クスリか?クスリに使うのか。だったらダメだ。今日の取引きは中止だ。目が飛んでないやつを拾ったつもりだったのに。外れたか……」
「違う、そうじゃない!家賃を払わないといけないんだ。俺は公園で寝起きしても良い……だけど、あの人には無理。だから……お願いします」
頭を下げる、自分を買ってくれと頭を下げる。こんな惨めな思いをするとは思わなかった。
「リュウ、本当に初めてなのか?」
コクンと頷くと、目隠しを外された。
「お願いだから、取引を止めると言わないでください」
「親は?」
親がいるイコール幸せ、養ってもらえるっていうのは成り立たない。
「親を養わなきゃいけない、だから……」
「二十一ってのは嘘だろう、お前本当はいくつだ?」
「じゅう……十八です」
「本当にまだ子供か、困ったな」
このままだと金はもらえない、そして住む場所もなくなるだろう……。
俺は跪くと目の前の男のベルトに手をかけた。
……そう先に進むために。
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