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第4話 再出発
卒業する前に引っ越す事になるとは夢にも思わなかった。
そして……その理由は瑞樹には絶対言えなかった。言いたくなかった。自分の父親のことを知られたくなかったからだ。
俺の中にあの父親と同じ血が流れていて、平気で人を傷つけるような人間になるとは思われたくなかったのだ。
汚いものを見るような目で見られたら生きてはいけない。楽しい思い出の中だけで生きていたい。
瑞樹にだけは知られたくない事実、好きだからこそ知られたくない事実。
だからなにも告げずに消える。
会えなくても永遠に友達、そんなのいらない。今すぐ切り捨ててもらった方がましだ。
親の離婚なんてよくある話だ。ただ、俺の場合は少しだけ違う。母親をDVから守る為、父親の暴力から逃げるため、今の知り合いとは一切の連絡を絶つ。
二度と会えない。きっといつか会えるよ、そういう嘘は要らない。
現実は冷たい。夢物語みたいな事は実際には起こらないと知っている。最後に俺に瑞樹の全てを刻み込んで、ここから消える。
母親には俺が必要だ。あの人を守る事ができるのは俺だけ。母には頼れる親戚もいないのだから、だから一緒に生きる。母親を置き去りにしたら多分一人で命を紡ぐ力は残っていない。
一人には出来ない。俺が守るしかない。そして、瑞樹には迷惑はかけられない。
俺のことは時間とともに忘れて瑞樹には他に良い人ができるだろう。幸せになってほしいと心から願う、愛した人だから。俺にはもう十分すぎるだけの想い出をくれた。
自分の携帯を取り出す。一瞬指が止まる。画面をタップすると待受には二人ならんだ笑顔。これくらい残しておいてもと、どこかで考えてしまう。でも心を残したまま新しい人生を送るのは無理だから。
携帯は昨日解約したからこれはただの箱。その箱に詰まっているのは瑞樹との思い出。覚悟するために自分の携帯からも瑞樹の電話番号と全ての履歴や写真を消さなくちゃいけない。
番号もメールアドレスもこれでわからなくなった。
初期化された携帯は単なる箱以下に成り下がってしまった。
今からまでの人生は終わった。この瞬間に瑞樹の恋人だった尾上奏太もういなくなった。
深く長く息を吐いた。何も役に立たなくなった携帯を引越しの荷物に放り込むと今にも倒れそうな母親の腕を掴んだ。
「母さん、行こう。もう大丈夫だから」
無理してやっと作った笑顔は歪んだものになってしまった。
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