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奏多の絶痛絶句
※暴力行為の表現が多々あります。
飛ばしても全然問題ありませんので、地雷等がある方は気をつけて下さい。
読まれた後の苦情はご遠慮下さい。
佐倉からタレコミがあったと、連絡が入ったのは夜が明けて外が白み始めて直ぐだった。
人龍会は全てのフロント企業、組事務所の電話の着信を24時間一括管理している。そのパソコン室に佐倉と米田が詰めていた。男の低い声で「北区の雑居ビル。前の通りに赤い屋根のパン屋」
とだけ言って切れたらしい。
発信元は携帯電話からで、持ち主の特定には至っていない。
直ぐに場所を特定し玄二と新田、田所、外科医の伸也が向かった。
可能性は低いが罠かもしれない。騒動を知った組長から
「ジタバタするな!」
と、一喝され奏多はジッと待つしかなかった。
机の上には折れたボールペンや万年筆が何本も転がっている。
「陽太発見」
の連絡が入り奏多は溜めていた息をふぅーと吐いた。
しばらくして、点滴をつけた陽太が組事務所の隣の伸也の病院に戻ってきた。
病院の入口で待ち構えていた奏多の眼に映ったのは息の荒い、血にまみれた陽太だった。
「陽太!」
駆け寄り頬を撫でても荒い息を繰り返すだけ。
伸也に
「今から始めます」
と、言われ陽太と無理矢理に引き離された。
田所と新田に両腕を掴まれていて、動きようがなかった。
奏多なんかに眼もくれずに待機していた看護師三人は慌ただしく動いている。
伸也の病院は外から見てもわからないが、処置室の隣に立派な手術室がある。
普段使うことはない、奏多の組御用達の手術室だ。
元々病院の隣は奏多が経営する不動産屋だった。それをまるごと移転し、表向きはそのままにして、壁を無くして繋げ手術室と病室を作った。今まで使用することはなかったが、使用者第1号が陽太になるとは……。
奏多が項垂れて座る隣に玄二が呆然と立っている。
離れた場所に佐伯がじっと座っていた。
待つものにとって永遠に続くと思われた長い時間が過ぎた。
伸也に呼ばれ病室に入ると酸素吸入をして、輸血や点滴の管に繋がれた陽太がいた。
伸也から淡淡と陽太の容態の説明があった。
ガムテープが止血の役割を担わなかったら、出血性ショックで亡くなっていた可能性があったということ。
肩の切り傷自体は長さはあるが、深くはなかった。しかし、そこを痛めつけられていて、かなり傷が広がってしまい、陽太の肩にひどい傷跡が残るということ。それに加えて感染症を起こしているらしく肺炎になっていること。
陽太の手を取り腕を摩る奏多の背に伸也の声がかかった。
「若いから回復は早いですよ」
40度近い熱を出して苦しげな陽太。
奏多のせいで陽太に辛い思いをさせてしまった。どう、償ったらいいのだろう。
可愛くて愛しくて、自分とは違う真っ当な人生を歩ませたかった。奇しくも奏多と恋人同士になったが、それでも出来る限り、関わらせたくはなかった闇の世界に。
なのに、こんなことになってしまった。
玄二のマスクから覗く眼は心配そうに陽太を見つめている、母親のように。
静寂な空間に陽太の息遣いが響く。
時間が経つごとにわずかだが、少しずつ穏かになっていく。
生きて戻ってきてくれたことに感謝する。
強姦された形跡もなかった。不幸中の幸いだろうか。陽太の心に取り返しのつかない傷が付いてないことだけを祈る。
陽太と一緒に回収した美和。人龍会事務所の地下で鎖に繋がして放置している。
どうしてくれようか…。
殺しはしない。死んだほうがマシと思わせてやる。
能面のようになった奏多。
「玄二、側を離れるなよ」
奏多は陽太の頬をひと撫ですると病室を後にする。
佐伯が奏多と入れ替わりに病室に入って行った。
病室の外で待っていた新田が無言で歩く奏多の後をついて行く。行き先は隣の組事務所の地下。
完全防音を施した部屋の奥にあるその部屋は二重に防音が施されている。
コンクリート剥き出しで、その壁には鎖を繋ぐ金具が至るところに突出している。部屋の隅にベッドと、簡易トイレがあるだけの殺風景な部屋だ。
美和は壁に張り付けられていた。
「奏多…」
叫び続けていたのか。出した声は掠れていた。
激しい憎しみしか沸かない、かつて恋人であった女を見ても。
おもむろに事務所から持ち出した銃を懐から取り出し美和の右肩を撃った。
美和の絶叫が部屋に響き渡る。
次は左肩を撃った。
気を失ったのか、叫び声はしない。
続けて右脚を撃った。
呻き声が上がった。
「頭、俺に処分を任せてもらっていいですか?」
斜め後ろに立っていた、新田が唐突に言葉を発する。
「こんな奴、頭の手を煩わせる必要はありません」
持っていた銃を放り投げた。
「…すまんな。頼んでいいか?」
「日本人の玩具が欲しい海外の娼館にでも払い下げます。簡単に死なせはしない」
「ああ、地獄をみせてやれ」
奏多は踵を返した。地下の入口で掃除屋と呼ばれる奴らと出くわした。
一斉に頭を下げた奴らの前を無言で通り過ぎた。
組事務所の外に出ると、雨は上がり星が瞬いていた。
奏多は病室のある隣のビルへ足を向ける。
陽太の意識は戻っただろうか?
奏多はエレベーターは使わず階段を駆け上がった。
病室に入る前に伸也に呼び止められた。
「新田は?」
伸也を紹介してきたのが新田だった。
このテナントで開業する一年前までは大学病院でメスを振るっていた、バリバリの外科医だった。
それがどこをどう間違えて、ここで開業することになったのか?
伸也も新田も話さないし、奏多も訊かない。
訊いてどうなる訳でもなく、新田が信用して連れてきたのなら、それに従うまで。
最近、伸也と新田はただならぬ仲に発展したようだ。
気づいているのは奏多と玄二ぐらいだろう。
「処理を頼んだ」
伸也の眼が曇った。
「そうか」
相容れない部分を伸也が飲み込んで、二人の関係は成り立っているのだろう。
陽太は今回のことをどう思うのだろうか?
「すまんな」
思わず口から出ていた。
伸也が鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
知らぬふりをして病室へ足を運んだ。
しかし、この組はゲイ率が半端ないと思う奏多であった…。
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