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幕間玄二の恋人①

「お前も物好きだな」 賢者タイム、決まってこの人はそう呟く。 玄二は何も答えず後ろから抱きしめる。嫌がる素振りを見せるが、抑え込むように力を入れれば、それ以上拒むことはない。 それをいいことに佐伯の首筋にキスの雨をふらせれば徐々に息が上がり、第二ラウンドに突入する。 聖人君子のような玄二だが、それなりに経験はある。たしかに高校までは柔道一直線だった。 関西に出てクラブに勤めてから、ホステスのお姉様に誘われるままに夜な夜な手ほどきを受けた。 そして、偶然会ったボーイ仲間だった男から誘いを受けたのは陽太の世話係になってすぐ。 「俺のこと抱いてみない?」 嫌悪感はなく、彼の部屋に連れ込まれ彼の主導で抱かせてもらった。 柔道をしていたらか、男を組み伏せると、征服できたようで思いの外、燃えた。 だがら、中性的な男より男にしか見えない男が好みだ。それからは女より男を抱いた。 最も、陽太が中2になってからは陽太に付きっきりでそんな機会が極端に減ったが。 佐伯とこんな関係になったのは去年の秋。 それまでも、陽太の後見人と世話係として、陽太の学校行事の度に顔は合わせていた。 去年の秋、奏多と陽太に何か決定的なことが起こった。 奏多は滅多に陽太の住むマンションに帰らなくなり、陽太から笑顔が消えた。 玄二にとって奏多は雲の上に存在で意見などできるわけもなく、さりとて陽太は関西へ出てきてから孤独だった玄二の心に温もりを与えてくれた大切な存在。 思いあまって佐伯に相談したのが、一歩踏み込むきっかけ。 相談するうちに佐伯の思慮深さ、潔さ、温かみに触れていつの間にか好きになっていた。 キリッとした顔つき。細身だが、ナヨっとした感じではない。 身体を重ねるようになってから知ったが、細マッチョまではいかなくても、全身に綺麗に筋肉がついていた。 玄二には最初は弁護士らしく知的に話していたが、いつの間にやら、ざっくばらんな話し方になった。 そのアンバランスな感じも好ましく感じた。 要はベタ惚れである。  誰かと付き合ったことも無ければ告白などもしたこともなく。 単刀直入にズバリ 「佐伯さん、俺の恋人になってください」 「へっ?」 この時の佐伯の顔は一生忘れないだろう。 眼をまん丸にし、口は少し開けて、呆けたように玄二を見た。 可愛いと思ってしまった玄二はもう末期の恋煩いだろう。 勿論駆け引きなんか出来るわけもなく、それからは押しの一手で押し切った。 佐伯にしてみれば、そのうち熱も冷めるだろと仕方なく付き合ってくれたのかもしれないが、付き合って仕舞えばこっちのもんだ。 佐伯は細身だが華奢でもなく、美形だが女よりの顔貌でもない。 でも、達した際の表情は艶があり、男独特のの美しさを醸し出す。 意外と色白で、乳首はピンク色であった。 このアンバランスが玄二の欲情を煽る。 恐るべし38才と舌舐めずりして食いつきたくなる。 若い玄二に合わせてか毎度二回は許してくれる。 それ以上は翌日休みじゃないとやらせてくれない。 二回目が終われば必ず 「このむっつりスケベの遅漏野郎」 と、息も絶え絶えに悪態をつかれる。 一晩中抱いて抱き潰したい欲求は常にあるのを、我慢しているから長くなるのは仕方ない。 この人こそ物好きだと思う。 ノンケだっただろうに、男の玄二に抱かれている。意外と奥手だったようで本人申告では付き合った人は数人で、全て女。 何となくだが、奏多に恋愛感情を持っていたのかと感じることがあるが、本人自体が友情の延長線上の好意としか思っていないので、寝た子を起こす必要もないと黙っている。 今年の正月に陽太から「抱いて欲しい」と、言われたと佐伯に伝えたら、途端に弁護士口調になり、 「どのような状況でそうなったのか」 と、床に正座をして一から説明をさせられた…。 やきもちを焼いてくれたのかと、ニヤけそうになるのを正座した脚をつねることで誤魔化した。 その後、陽太がやらかしたことも奏多は知らぬ存ぜぬを決め込んだ。 どうして… 奏多への不信感が積もっていく。 そんな時、佐伯に誘われてランチを取りに出かけた。年が明けてからは陽太の側にいてなかなか会うことができないでいた。 今日は玄二の好きな中華料理を食べさせてくれるらしい。 連れて来られた中華飯店は落ち着きのある店構えで玄二には敷居が高く入るのを躊躇したが、佐伯に引っ張って行かれた。どうも奏多の行きつけらしく、佐伯もたまに来るとのこと。 「玄二に食べさせたくてね」 と、笑顔で言われて、ご馳走になった。 食事を終え、佐伯がスマートに支払ってくれて大人の貫禄を見せた。 自分もいつかこんな男になると肝に銘じた。 店を出て歩き出そうとしたその時、見知った車を見かけた。 「こっち」 佐伯に腕を掴まれ隣のビルの中に。 中華飯店に横づけされた車から降りてきたのは、奏多と陽太によく似た青年だった。 ああ。 「佐伯さん、あれって…」 佐伯はわずかに口角をあげて。 「そういう事」 外に出て、奏多達が入っていったドアを見つめた。 佐伯は玄二の奏多への不信感を拭うためにここへ連れてきてくれたのか。 年上の恋人は玄二の心の機敏に敏感に反応してくれる。 「ありがとう」 ん?と、何のことと、知らぬふりをしながら恋人は歩き出した。

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