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幕間玄二の恋人②R18
すれ違ったままの奏多と陽太。
奏多の情人は陽太にそっくりだった。奏多の本心を知ってしまったいま、
「頭は陽太さんのことを好きで好きでたまらないんですよ!貴方の身代わりを抱くぐらいに」って告げたくて仕方なかった。
しかし。
「他人から、どうこうされても駄目なんだよ。奏多もそろそろ腹を括るさ」
と、佐伯に止められて…。
「どうしても駄目なんですか?」
時間をかけて抱いたせいで、ぐったりとした佐伯の身体を綺麗にタオルで拭いて、ミネラルウォーターを渡しながら訊いた。
気怠さを前面に出して、佐伯は旨そうに水を飲んだ。
「あいつの性格、知ってんだろ?陽太がそれを知ったところで事態は変わらないさ。奏多が自分の気持ちを認めない限りね」
枕にもたれミネラルウォーターを飲む佐伯を立ったまま、見つめた。
コトンと持っていたペットボトルを置いた佐伯に、ちょいちょいと指で呼ばれ、ベッドに腰掛けた。
「お前は陽太が思いつめて無茶をしないようにだけ、気をつけておけよ」
「…はい」
首に手をかけられ引き寄せられた。
しかめっ面をしているであろう玄二の耳に唇を寄せて
「もう一回するか?」
「もちろん!」
明日休みじゃないのに、三回目!
佐伯の上にのし掛かると、
「重い」
艶やかな表情で笑った。
と、いっても、やはり悶々としながら日々を過ごしていた。
とうとう、陽太は東京の一人暮らしの部屋に出発。
のはずが、尾行を振り切って東京歌舞伎町へ足を向けた陽太。
もう何が何だか、意味がわからなかった。
それからはもう、怒涛の四泊五日を過ごした。
東京から戻った玄二に
「なっ?うまく収まっただろ?」
と、佐伯は笑った。
奏多と陽太の順風満帆な生活は二か月も無かった。
玄二は奏多と陽太のマンションに常駐することになった。
佐伯と会えない…。
一瞬、顔に出ていたのか奏多に連れ込むなよと、釘を刺された。
誰を?とも聞けなかった。奏多はきっと全てお見通しだろうから。
奏多は何か策を練っているようで、陽太の待つマンションに帰ってこなくなった。
陽太は寂しそうだが、以前と違うのは奏多は毎晩連絡をしてくること。
その度に陽太は甘えた声で奏多と話している。
早くこの件の方が付いて玄二も佐伯と会いたい。玄二もまた電話でしか連絡を取り合って無かった。
そんなある日。
「かなたん、遅いね」
寂しげに窓辺から遠くの交差点を見下ろしていた陽太。
「玄二くん、かなたん僕が寝るまでに帰ってくるかな?」
瞳に涙をいっぱい溜めて玄二に抱きついた。
「どうしました、陽太さん?」
「怖い」
ギュウギュウと抱きついてくる陽太。
陽太の精神状態が危うい。
久しぶりに戻ってきた奏多にそれを伝えた。
奏多の練っていた策が決行されて万事上手くいくはずだったのに…。
陽太がいなくなった。
どうしてこうなるのか…。
徹からの午後五時の定期連絡が入らず、こちらから掛けた電話にも出なかった。
もちろん陽太とも音信不通。
陽太のスマホのGPSが差す場所である大学に急行したが、陽太はいなかった。
陽太と徹がいなくなってから五時間。
必死に陽太を探した。
佐伯にも連絡を取った。
「冷静になれ、玄二」
そう、佐伯に言われて。
「無理にきまってる!」
と、言い返していた。
「俺は冷静沈着は玄二が好きだよ」
それを聞いて電話をブチ切った。
どうして、そこで好きと言うんだ!
新田から連絡が入って。
南のマンションに急行してみれば。
車の外に転がり出て目に入ったのは項垂れて座り込んでいる徹としがみつく翼。
陽太の姿は既になかった。
「徹、説明しろ」
奏多が蹴りを入れる前に自分が徹の胸元を持ち身体を吊り上げていた。
「どういうことだ」
拳を徹の顔面に振り上げた。
くそッ!
徹と翼を締め上げて、おおよその事情が判った。
玄二の血で汚れた服と腫れた拳を見た佐伯が憮然としている。
「だから、どうして…」
悲しげな佐伯と、目も合わさなければ、一言も話さなかった。
電話をブチ切ってからスマホに着信が何度もあったが出なかった。
玄二は極道で佐伯は弁護士。所詮住む世界が違うのだ。
翌日、垂れ込みがあり陽太の奪還に向かう。
血塗れの陽太。
頭を持ち上げて声をかけた。
「玄二くん…」
生きていた。
涙が溢れた。
弟のような陽太。身内よりも大切な陽太。
確かにこの時は名前を呼んでくれたのに。
手術が済み、意識の戻った陽太は玄二を覚えていなかった。
玄二に「はじめまして」とペコリと頭を下げた。
奏多から少し休めと言われて、何ヶ月も帰っていない自分のアパートに帰ることにした。最近は奏多のマンションに住んでいて、滅多にない休みの日には佐伯のマンションに居た。タクシーに乗ろうと手を上げると、タクシーではなく見知った車が滑り込んできた。
「乗って」
助手席が中から開いて、躊躇っていると、後ろからクラクションを鳴らされる。
後ろの車を睨むと
「いいから、早く乗れ!」
渋々、乗り込んだ。
だんまりを決め込んでいると、隣から伸びてきた指に頬を抓られた。
「痛い」
「連絡ぐらいよこせよ」
そっぽを向いて。
頬をさすりながら背もたれに身体を預けた。
あぁ、疲れた…。
肩をトントンと叩かれて目を開けたら、佐伯のマンションの地下駐車場だった。
腕を引かれるままに部屋に連れ込まれ浴室に押し込まれた。ゆっくりと湯船に浸かるのはいつぶりだろうか?
時間をかけて身体を洗うとさっぱりした。
脱衣室には玄二のスウェット上下が用意されていて。ダイニングのほうからは良い匂いがしてくる。
佐伯の心遣いに涙がにじむ。
リビングのテーブルには玄二の好物ばかり用意されていた。
「これって…」
「小料理屋の女将さんに特別に作ってもらってタッパーに詰めてきた」
俺は料理苦手だろ?と、笑う。
合理主義な佐伯らしいが、忙しい中、自分のためにわざわざ玄二の好きな小料理屋の料理を用意してくれたことが嬉しい。
「あっ!オニオンスープと、ご飯は俺が作ったぞ」
「ありがとうございます」
頭を下げたら、
「いいから。さぁ、いっぱい食って寝ろ」
スープスープと言いながらキッチンへ戻っていった。
心配してかけてくれた言葉に切れて、大人気ない態度を取ったのに何も言わずに許してくれるのか、この人は。
温かい食事と温かいご飯。
腹一杯食べて、歯を磨いて寝室のベッドへ。
勿論抱き枕は佐伯だ。
腕を引っ張って寝室に連れ込んでも何もいわなかった。抱き枕にしたら、子供にするように背中を優しく撫でてくる。
「子供じゃない」
文句を言ったら
「そうだな、お前性欲の塊だもんな」
酷い言われように反論しようとしたが…出た言葉は
「ごめん」
愛してるは言えたかわからない。その前に多分眠ってしまったから。
寝室に人が入ってくる音で目が覚めた。
「あっ。玄二起しちゃった?」
「いえ。今何時ですか?」
「ん?二時だな」
「えっ?昼間の!?」
「ああ、よく眠っていたからな」
クスクス笑う佐伯。
かれこれ、15時間は眠っていたことになる。
慌てて起きて、スマホを確認すると、奏多から連絡があって、夜に陽太の付き添いを変わって欲しいとあった。
すぐに返信をする。
「何時までここに居れる?」
「八時までです」
「そうか、じゃあゆっくり出来るな。玄二の作った飯が食いたい」
「ああ良いですよ。作ります」
「そう言ってくれると思って、ネットスーパーで食材頼んだ。もうそろそろ来る」
ニンマリと笑う佐伯。
抜かりない佐伯に思わず笑った。
「だってな、お前最近作ってくれなかっただろ?」
少し口を尖らす佐伯は本当に弁護士かと思う。それがまた可愛く感じる玄二も大概だが。
コーヒーだけをもらいソファーへ座って飲んでいるとインターフォンがなり、配達員が食材を運んできた。
えげつない量に目眩がする。
「頼みすぎた?」
「ええ。そのようですね」
冷蔵庫に何とか詰めて、下ごしらえもして。
腹ごしらえの前に佐伯を堪能したい。
顔を正面から見つめて。
「佐伯さん、いい?」
「あぁ」
佐伯の照れたようにした返事を最後まで聞かずに口づけていた。
久しぶりの佐伯の唇。
すぐにたまらなくなり、嬲るように激しく犯す。
口づけだけで、膝を震わす佐伯を抱え上げて寝室のベッドへ。
上に乗って口づけを再開して。
口の中、上顎を舌先で嘗め回さし舌を吸った。
「ふぁッ…あ、ぁ。」
顎に触れて、首筋に吸い付いた。
この人はこんなにも温かい。
年下でネガティブな玄二を要所要所で導いてくれる。
徹は玄二にとって初めて出来た弟分だった。信頼の元、陽太の護衛に抜擢した。その信頼を裏切り陽太ではなく翼を庇った。
そのせいで連れ去られた陽太は重症を負った。
佐伯は危惧していたのだろう。徹を痛めつけることによって玄二もまた傷つくことを。
そして……。
陽太は過去に戻ってしまった。
ピンク色の乳首を舐め回し片方を摘みあげる。
「あ、ンー」
と、上ずった声が聞こえる。
脇を撫で佐伯の屹立を軽く握り込んだ。
そしてゆっくりと擦り上げて、唇を寄せ口に含んだ。
「あー。ん…」
玄二は屹立をなぞる様に舌で舐めた。
佐伯の手が、玄二の髪を掴むように絡みつく。
佐伯の吐息が艶っぽい。
佐伯が玄二で感じている。
もっともっと感じて。
舌と手で愛撫を繰り返すし、先走りの浮かんだ先端に舌を這わせ、舐め回した
喉奥まで押し込み滑らせ、佐伯の熱を堪能する。
「出るから…離せ、玄二っ!」.
一気に舌で追い上げて。佐伯は玄二の口内に白濁を吐き出した。
ゴクリと飲み込んだら
「何で…」
「飲みたかったから」
狼狽る佐伯の蕾を露にして玄二は舌を寄せた。
「……ぁあっ」
襞を一枚一枚掻き分けるように、舌を這わせた。
より一層狼狽え、暴れる佐伯の脚を掴み押さえ込んで丹念に尖らせた舌先で解した。
玄二の舌が太い指が粘膜を擦る度、佐伯が声を出す。
「あっあっあっ…」
抵抗する蕾の内部へローションを纏わせた指をゆっくり内部へと押し入れた
佐伯は必死にシーツを握り締め悶えている。
指を増やして一番弱い部分を擦り上げる。
「玄二…げ…ん」
咽び泣く様に玄二の名を呼ぶ佐伯。
まろい尻に口づけを落とし。
「力抜いて」
「ん…あっ……ぁああ……っ」
熱く反り返った楔を突き入れるように佐伯の中へ挿れた。
熱くて、溶けてしまいそうだ。
更に奥にとねじ込むように、押さえつけていた佐伯の脚を肩に担ぎ上げた。
「あぁっ……あああぁ」
唇から漏れる喘ぎ声を抑えるように、佐伯は唇を噛む。
「噛み締めないで声出して」
玄二の腰が佐伯の尻に打ち付けられ、パンパンと音を出す。
何度も何度も楔を最奥へ叩きつけた。
佐伯とともに絶頂へと昇りつめていく。
「愛してる」
「俺も…玄…」
ベッドに沈み込む佐伯を尻目にいそいそとキッチンに立つ玄二。
佐伯の好きなほうれん草入りの出汁巻きも作ったし、茶碗蒸しも作った。チキンのソテーも作った。佐伯は卵料理が大好きなのだが、いつもはメタボを気にして一日一個に制限しているが、今日は運動したし良いだろう。
「玄二〜」
起き上がれない佐伯が呼んでいる。
「お前は!限度ってもんがあるだろが!」
と、終わった後に掠れた声で怒られた。
「立つから支えろ」
抱き抱えるようにソファーへ。
キッチンのテーブルではなく、リビングのガラステーブルに食事を並べた。
佐伯がリビングの椅子には座れないからだ。
手渡した皿の出汁巻きを口に入れた佐伯の顔が緩んでいく。
玄二が見ているのに気づくと、またしかめっ面になった。
可笑しくて仕方ないが、また怒られるので、笑うのを堪えた。
せっせせっせと佐伯の皿におかずを載せた。リクエストのきのこの炊き込みご飯もおにぎりにしたらペロリと食べた。
この人が好きだ。愛している。
大人で、ベッドの中では艶っぽくて。
敏腕弁護士で、玄二など相手にせずとも言いよる男女はたくさんいるだろうに。
玄二を気遣い、心に寄り添ってくれる。
いつか、この人の役に立つ日がくるだろうか。もし、この人が助けを求めたら全てを捨てていくだろう。
陽太には奏多がいる。
だから、玄二は佐伯のそばにいたいと思う。
食事の後、物思いに耽りながらブラックコーヒーを口に含んだ。
「玄二」
年寄りのように煎茶をすすっていた佐伯。
「はい?」
「陽太を必ず転院させろよ。秋山の紹介の病院は記憶障害の治療に定評がある。今の奏多は陽太を籠の鳥にしかねない」
「佐伯さん…」
「お前は陽太に何を望む?」
「俺は…。」
玄二の希望はまた陽太が元気に明るく大学に通うことだ。
そしてゆくゆくは奏多のカタギの仕事を手伝って欲しい。それを陽太も望んでいた。
「ありがとう佐伯さん」
ニヤリと笑った佐伯は湯呑みに口をつけた。
ん?と、佐伯は湯呑みを覗きこみ。
「おかわり、玄二」
「はいはい」
煎れますとも、煎茶。
玄二は立ち上がりいそいそとキッチンにむかった。
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