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陽太の現在過去未来④

僕はいったいどうして…。 どうして、奏多と車にのっているの? ………。晶子ママは? あれからどうなったの? 僕はいったい……。 「あ、あ、あの…」 沢山の訊ねたい事が頭の中を駆け巡り、言葉にできない。 「陽太、痛いところはないか?」 そんなことはお構いなしに奏多は陽太の身体を検分しながら怪我はないか尋ねてくる。 「…かな、たん、何でいる…?」 「陽太、お前なぁ…」 呆れを心配を混ぜたような表情で、頭から頬にかけてを撫でられた。 「お前が考えそうなことなんぞ、百も承知」 ぞんざいな言葉とは裏腹に奏多の心配そうな眼差しに見つめられる。 その言葉に全てを悟った。 バレてる………。 「ご、ご….ごめんなさい」 陽太の様子がおかしいこと。稲郷から急に仕事を頼まれたこと。 挙句、玄二である必要のない仕事を玄二にさせろと、言ってきたこと。 「ちょっと考えればわかる。姐さんの動きもおかしかったしな」 そう、話終えた奏多の陽太の肩を抱く腕に少し力が入った。 そっか、奏多は全部お見通しなのか。 悔しい。凄く悔しい。 いつだって、奏多は陽太より賢くて。 二十歳も上だから当たり前だけど。 いつだって、手のひらで遊ばされている。 こんなんで、恋人と言えるのかな? 「陽太、記憶戻ったのか?」 「うん、ほとんどね」 「それで、何で、杏果に会いにいった? 「………。どんな人か見極めたかったから」 「何のために?」 矢継ぎ早に奏多に問い詰められて。 「かなたんにふさわしいかどうかだよ!」 思わず、そう怒鳴っていた。 「それで、どうだったんだ?」 「…………。綺麗で良いと思った…」 「お前らを拉致し掛けた奴らと、つるんでいる女が俺に相応しいと?」 「そこまでするとは思わなかった」 「電話してきたのも、杏果と思わなかったのか?」 「周りがやったと思ってた」 「どこまでもお人好しだな、お前は」 奏多がやれやれと、言うように前を見た。 「晶子ママは無事だよね?」 「ああ、もちろん」 「誰も怪我してない?」 「こっち側はな」 「えっ?あっちは?」 「お前に話す気はない」 「…ごめんなさい。かなたん」 俯く陽太に気づいたのか、 「まぁ。お前が無事だからお咎めはなしにするが、二度はないぞ」 「…はい」 まだまだ、続きそうな奏多の説教。 その話を右から左に流しながら、落ち着いて周りを視れば。 車はマンションへ向かっている。運転しているのは目つきの鋭い中肉中背の男。その隣りには背が高い角刈りの奏多とはタイプの違う漢前な人。どちらも初めて見た人だ。奏多の部下だろうか? 極道でも部下っていうのかなぁって、どうでもいい事を考えた。 後から聞いたら、運転手は舎弟頭の田所で助手席は若頭補佐の新田だった。 奏多の肩に凭れながらまだ、続いている奏多の説教をぼんやりと聞いた。 杏果はどうなったのだろうか?あの男達は誰だったのだろう。肝心なところはいつも教えてもらえない。 いつだってそうだ。 いつだって陽太は奏多の庇護の対象だ。 これからもずっとこの関係が続くのだろうか? 「かなたん、誰かと結婚して組長になるの?」 奏多の説教を遮るように強い口調で問いただしていた。 「はぁ?誰がそんな事言ったんだ?」 「誰でもいいじゃないか!杏果さんじゃなくても、他の女の人と!?」 陽太以外の誰かと結婚するつもりなのか? 陽太は二番目なのか? 唯一ではないのか? そう、陽太は奏多の唯一になりたい。 一番でも、二番でもない、唯一だ。 そして、奏多と肩を並べて生きて行きたい。 奏多の子供は産めなくても、役に立ちたいのだ。 だけど…. 陽太は奏多の唯一になれるほど、何も持ってはいない。ただの18才の資格も何もないただの男だ。 奏多には陽太といても何のメリットもないのだ。 広い後部座席の奏多の傍から窓際に身体を寄せた。 車はマンション近くの橋を渡っていた。 もうじき、マンションに着くだろう。 車窓を眺める陽太の瞳から滂沱の涙が溢れた。 「陽太、泣いてないでこっちへ来い」 マンションの駐車場に着いて、奏多に引っ張られ抱きしめられた。 奏多の胸に頬を寄せた。 「かなたん、今日はもうマンションにずっといるの?」 「陽太を寝かしてから一旦組へ戻る」 「僕、大学生だよ。寝かしつけてもらわなくても大丈夫だよ」 バカにするな!とは、言えなかった。今まではそれを喜んでいたのだから。 「陽太、玄二はまだマンションにいない。陽太が嫌なら、玄二が帰ったら交代するな」 今日の奏多は優しい。 本当ならもっと怒られて然るべき。 晶子を引っ張り込んで、奏多や玄二をだました。 説教も大半は聞き流したが、陽太を心配するが故に出たものばかりだった。 陽太が奏多を愛しているように奏多にも愛して欲しい。 「かなたん、お願いがあるの」 「何だ?」 「部屋に戻ったら言うよ」 「じゃあ、戻るか」 先に降りた奏多は反対側へ周り車から降りた陽太を抱き上げて、エレベーターに向かう。 「あわわ〜」 陽太が慌てると奏多は優しい笑顔をみせた。 奏多の首に腕を巻き付け、顔を伏せた。 奏多が大好きだ。 だから。

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