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陽太の現在過去未来⑤

「陽太、こいつは俺の片腕の新田だ」 まだ、会ったことなかっただろうと奏多は続ける。 エレベーター内でそう言われても。 ええ、ありませんとも! 挨拶するにも抱きあげられたままじゃなぁ〜。 ムムっとする間に玄関に到着すれば、靴を新田に脱がされて、赤面ものだった…。 奏多は素知らぬフリで廊下を進む。 ポスンと下されたソファで仕方なく 「はじめまして」 と、間抜け丸出しでペコリと頭を下げた。 「こちらこそ、よろしくお願いします」 と、新田は膝を折り、頭を下げた。 漢前な容貌で笑みをみせてくれる。 ………この人も陽太が奏多の情人だから頭を下げてくれるのだろうか? 一瞬頭に浮かんだ負の感情。 素直に受け取らず、拗けた自分の性格が嫌になる。 「お茶を入れましょう」 新田はこの家に初めてきたんじゃないのか?わかるのかな? 「僕が…」 いえ、大丈夫ですと、新田は陽太を押し留め、キッチンへ入っていった。 向かい側の1人様のソファに座った奏多。 車に乗ってからずっと同じことを訊く。 「陽太、頭とか痛くないか?」 「大丈夫」 「記憶はいつから戻っていた?」 「最近」 「陽太、具体的に言え」 「忘れた」 「陽太」 「記憶にないって!」 「陽太、怒るぞ」 奏多の声が剣呑になっていく。 八つ当たりと分かっているが、どうしようもなくつっけんどんな言い方になってしまう。 陽太を足を組んだ姿勢で、睨みつける奏多。 カッコイイけど…。 視線を合わすことができなかった。そこへタイミングよくなのか、新田がトレイを持って現れた。 「どうぞ」 新田が奏でる、微かなカチャっと食器が鳴る音が聞こえるくらい沈黙がその場を支配した。 「美味しい〜」 わざとらしく声を上げた。 新田が入れたコーヒーは実際とても美味しかった。もちろん陽太は牛乳と砂糖をいれたが。 甘い物で機嫌が治る自分の幼稚さに呆れる。 奏多は新田にもコーヒーを勧め、それを持って書斎に移動した。 独りになって、ホッとしてソファに沈み込んだ。 フゥと大きなため息が落ちた。 晶子はどうなったのだろう、杏果は? 晶子は無事なのだろう、無事じゃなかったら奏多はここにいないはず。 奏多の話から想像するに杏果やあの知らない三人の男は奏多達が捕らえているはず。 陽太のせいで騒動になってしまった…。 晶子は稲郷に叱られていないだろうか? ソファで独りいじいじと指をこねこねしていたら、新田が 「帰ります」 と、声をかけてきた。 「あっ、はい。お疲れ様です」 新田がクスリと笑い、失礼しますと帰っていった。 「陽太、お願いって何だ?」 腰を屈めソファに沈み込んでいる陽太の頭を撫でる奏多。先程の剣呑な表情は引っ込めている。 今はもう穏やかな顔をして、完全に子供扱いをしてくる。 「杏果さんはどうなったの?」 「お前は知らなくていい」 「どうして?僕が子供だから?」 「ああそうだ。だからこれ以上は関わるな」 「もう、関わってるよ!なのに、いつだって肝心なことは教えてくれない」 再び、剣呑な表情に戻った。 「陽太、それなら教えてやる。杏果は組を裏切り他の組に情報を流していた。杏果は親も裏切っていたんだ」 「えっ?そんな…」 「探っていた時にお前が飛び込んできたんだ」 「僕、邪魔したんだね…」 「結果オーライだったが、一つ間違えば命は無かったかもな」 奏多はやれやれという表情をした。結局はまた、奏多に迷惑をかけた。自分で考えて動いた結果はいつものように他の禍いを呼んでくる。 やっぱり、駄目だ……。 涙が溢れてくる。 いつもいつも、奏多に迷惑をかけてしまう。 「陽太」 ソファの隣に座り、奏多は陽太を膝に乗せてくれる。 されるがままに、肩に顔をつけて、泣きじゃくった。 「ごめんなさい」 そう、謝るしかなかった。 背中を撫でる奏多の大きな手はとても、優しかった。 「かなたん、今の僕はかなたんの何?」 赤い瞳で訊ねた陽太に、奏多は一瞬だけ怯んだ。 そして、慎重に答えた。 「何者にも代えがたい者だな」 「それは恋人として?」 「それもあるし、家族でもある」 「じゃあ、何でないの?」 「何が?」 「僕が買ってきたベッドは?」 振り向き奏多の書斎を指差す。 「…。」 「抱きたくないから、捨てたんでしょ」 「それは違う」 「嘘つき!」 地団駄を踏まんばかりに、全身で怒りを表した。 「嘘じゃない陽太、俺はいつだってお前を抱きたい!」 「じゃ、待ってて!」 膝の上から飛び退いてリビングを出た。 浴室にて陽太はしばし固まっている。 で、できない…。指がなかなか、蕾の中に入っていかない。 ええい、ままよ!! ………………………。 やれやれ……。 ネコにゃんのみなさんはこの洗浄なるものを自分でされるのでしょうか?相手にしてもらうのでしょうか?いかがされてるのでしょうか? 本日の業務は終了しました。って、ぐらいドッと、疲れた。 奏多は待ってくれているだろうか? 奏多のバスローブを引っ張り出して裸の身体を覆った。バスローブに着られてる感が半端ない。しかし、パジャマやTシャツにスウェットってのも、色気なんてあったもんじゃない。女なら、可愛いキャミソールなんて着るのもありだろうが……。自分の着た姿を想像したがすぐに打ち消した。 奏多は大きな窓から外を眺めながら琥珀色の液体が入ったグラスを傾けていた。上着とネクタイをとり、ワイシャツとスラックス。久しぶりにみたビール以外を飲む姿。 以前からガラスキャビネットに酒瓶やグラスを飾ってはあったけれど、飲んでる姿をみたのは初めてかも。意識して見せない様にしていたのかな? カッコイイ。 いつか、自分もあんな風に一緒にグラスを傾けたい。 「陽太」 リビングの入口で突っ立っていたら低い声で呼ばれた。 奏多の射るような眼差しに怯む。 と、………………。 「ぶかぶかだな」 と、堪えきれずに吹き出す奏多。 た、たしかに、バスローブを借りたものの、腰ベルトは長すぎて大きなリボン結びになったし、前合わせは身体の側面までいって、まるでタオル地の浴衣を着ているようだ。 「う、うるさい」 残念な自分にイライラして、地団駄を踏んでいたら 「こっちこい」 奏多の優しい声。 顔を上げ、走り出していた。 「かなたん!」 大好き大好き大好き大好き。 飛びついたら、しっかりと受け止めてくれて。 「陽太、お帰り」 記憶が戻ったのを喜んでくれるの? 「かなたん、黙っててごめんね」 縦抱きにされておデコをくっつけて。 「どうして黙ってた?」 「お見合いするって、電話で…」 「そんな前から戻っていたのか…。もう、頭痛くないのか?」 「うん、全然」 「そうか…気づいてやれずにすまなかったな」 奏多が鼻をグリグリしてくる。 「ん…」 奏多の首にしがみつき、耳をペロリと舐めた。 「かなたん、エッチしたい」 「……。やる気満々だな」 「うん。したいの」 お願いと、抱きつく腕に力を込めた。 奏多は陽太を抱き上げたまま、寝室へ向かって歩いていく。もちろん、陽太は落ちないように脚をしっかりと奏多の身体に巻き付けた。 前のだだっ広いベッドじゃなくて、セミダブルのベッドに下ろされた。 前のベッド気に入っていたのに。 でも、これでよかったかもしれない。 奏多一人で眠るなら十分なのだから。 奏多にバスローブのベルトのリボン結びをニヤリとされながら解かれ、合わせ目を肌蹴られ、素っ裸の陽太になった。 「用意周到だな」 「言わないで」 つい、俯いてしまう。 頤を指であげられ、口づけられた。

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