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大切な人④
慌てて日本に帰ってきて早一ヶ月。
この1ヶ月の陽太は情けないことにアメリカに行く前の陽太に戻っていた。
奏多の生死に心が囚われて弱い部分が前面に出ていた。
弱い心のままに落ち込んでいた。
里美のことにしろ、奏多は関係ないと言っていたじゃないか。
翼だって、陽太の身代わりでしかなかった。
自惚でもなく、奏多は陽太に執着に近い愛情を示してくれている。
何を恐れる必要があったんだろうか?
翼はどんな思惑があったにしろ、奏多を愛していた。
今日翼に会ってそう感じた。
殺したいほど愛していたのだ。
今目の前にいる里美だって、20年近く経った今でも奏多を想っている。
男として、魅力的で人を惹きつけるカリスマ性をもっている。
陽太が好きになったのはそんな男なのだ。
「陽太、どうした?」
里美を見つめたまま、うっすらと笑う陽太に訝しげな声をかけてきた。
「里美さん、僕と奏多はこう言う関係なんです」
おもむろに陽太はベッドに乗り上げ、奏多に口づけをした。
それもねっとりとした濃厚なやつ。
チュッと、わざとらしく音をあげ、陽太は奏多の唇を舐めた。
奏多といえば一瞬驚いた顔をしたが、口づけを拒むわけでもなく、終わった後はニヤリと笑った。
「軽蔑します?親子じゃないんで。恋人同士です、僕たち」
里美にむかって、挑戦的に言う陽太。
呆気に取られていた里美はようやく持ち直したのか、大きなため息を一つ。
そして、最低と呟き、踵を返した。
「陽太もやるねぇ」
奏多のその一言に切れた。
こんなに奏多に腹がたったのは初めてかもしれない。
「いいかげんにしろ!この、スケコマシ‼︎」
「陽太……」
さすがの奏多もこの発言にはびっくりしたみたいで。
「そんな言葉を使っちゃあ、いけません」
なんて、小声でぶつぶつ言っている。
「かなたんて、ホントに最低‼︎何でこんな人好きなんだろう?自分が自分で嫌になる!もう、ここには来ないから!」
と、捨て台詞を残して、部屋から飛び出した。
「陽太!」
後ろでドタバタ音がしたが、無視した。
そしてその足で、マンションに帰り、一番早い便でアメリカに帰る手配をした。
もちろん、座席はエコノミーで。
そして、僕は今アメリカボストンの大学寮にいる。
奏多から夥しい数の着信やら、メールやらが時差関係なく、スマホに入ってきていたが、出なかった。
ただし、佐伯と玄二の電話には出た。
佐伯はこちら時間の昼間に掛けてきて、電話に出るなり爆笑の嵐で。
「よく言った!陽太最高だ!」
そちらは夜中のはずなのにとても元気だった。
奏多の様子も教えてくれて。
「こちらは気にするな。大学最後の年だ。楽しめな」
温かい言葉に甘えて、奏多は任せることにした。
玄二はやはり、母親のように身体や心を心配してくれていた。
玄二にだけは勝手なことをしてと、謝った。
あと、どうしても気になるので、翼と真斗の過去に何があったのか遡って調べてもらうことにした。
費用は陽太の貯金から出すと、念押しして。
陽太が大学を卒業して、日本へ帰り奏多と公私共にすごすようになったとしても、次から次へと似たようなことが起きるだろう。
奏多は人たらしだ。ずるいところも多々ある。
そんな奏多と一緒にいるためには、手綱はしっかりと握り、手のひらで遊ばせれるようになるしかない。
メソメソ泣いているばかりでは何も変わらない。
そう、変わるのは自分自身だ。
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