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幕間 玄二のメランコリーな日々

陽太が切れてアメリカに戻ってからの奏多は甚だ鬱陶しい。 尊敬する組長に対していかがなものかと自分でも思うが、本当にそう思うのだ。 ベッドの上でスマホを眺めては溜息を落とす。 そうかと思えば 「俺ってスケコマシか?貢がしてはないぞ?むしろ、住むところも金も渡していたよな?」 と、佐伯に同意を求める。 なんで佐伯に同意を求める?と、思った直後に 「陽太って最高か!スケコマシって、お前にドンピシャ!よく見てるわ、陽太」 と、爆笑する佐伯は、後先考えずに玄二が思った通りの返事を返していた。 あっ。奏多を振り向く間もなく、TVのリモコンが至近距離にいた佐伯の額を直撃する。 慌てて駆け寄り、頽れた佐伯の額を検分する。 「ふん!ざぁまぁみろ」 奏多が吠えている。 喚き散らす佐伯をソファへ運び額を氷で冷やす。 寡黙な新田が氷を用意してくれた。 いたんですか、若頭…。 「陽太さんが言っていたのは、女たらしって意味で、組長はモテるからじゃないですか?」 と玄二はいらぬことを言わせぬように、佐伯の口を自分の手で塞いでから、スマホで調べたことを話してみた。 スケコマシという言葉を玄二も知ってはいたが、意味も何となくしか知らないし、使ったこともない。何故、陽太がそれを使ったのはわからないが、多分陽太が言いたかったのは女たらしだ。でも、玄二から言わせれば、奏多は人たらしだ。男にも女にもモテる。性愛でなくても、憧れや尊敬を持たれる人、それが奏多だ。 ヨイショしたつもりはないが、それでも奏多は溜息しかつかず 「モテるのは俺のせいではない」 とのたまう。 「そんなんだから、陽太が切れんだろうが」 佐伯が玄二の手をはねのけ叫んだ。 「なにぃ!」 起き上がろうとする奏多を新田が 「まぁまぁ傷が開きますよ」 と押し留める。 若頭、good jobです。 一髪触発の二人。 佐伯も何故に煽るんだろうか? モヤモヤして氷をグッと額に押しつけた。 「いたい、ゲンジ」 涙目で訴える佐伯。 「もう黙ってて」 「はい、ごめん」 しょんぼりするあんたは可愛い、可愛いんだが。 あぁ、この状況。 鬱陶しいことこの上ない。 松田里美はあれからめっきり来なくなった。朝には必ず検温や状態確認に来ていたし医師の回診の際にもいたのに。 わざわざ、シフトを変えて来ていたってことか?別に看護師長が担当ってこともなかったのか。 松田里美の方は焼け木杭に火が着いていたのは間違いない。 陽太もクラブのホステスやキャバ嬢なら、ここまで悩まず切れなかったと思う。だって皆、玄人だから。 だが、松田里美は違う。 昔の恋人であり、看護師という職業に就いている、そういう世界の玄人ではない。 奏多とて、まさかあそこまで陽太が怒るとは思っていなかったのではないか? 奏多はきっと嬉しかったのだ、陽太の可愛い嫉妬が。 確かに松田里美とは恋人同士だったかもしれない。だが、今まで奏多と陽太を見てきた玄二にはわかる。奏多は松田里美のことを歯牙にも掛けていない。  ただただ、可愛い嫉妬が見たくて放置していたのだ。 それが仇となった。 また、奏多のぼやきが聞こえる。 ほんまにアメリカへ戻ったんかー あんなに怒らんでもえーやん。 久しぶりのキスやったのになぁー。 ああ、もっとしたかったのになぁー。 なんでやー!なんでやねん! 陽太、カムバッァァック! 最初は呟きから始まり、最後は窓に向かって叫んでいる奏多。 そんなん、知らんがなー! と、玄二は心の中で叫ぶ。 特別室で繰り広げられる奏多協奏曲。 ベッドの近くに仏像のように立つ、眉間に皺を寄せた新田の口から溜息が一つ落ちた。 わかります、わかりますよ若頭。 下を向けば赤黒く腫れつつある佐伯の額……。 もろにくらったもんなぁ。 痛がる佐伯の頭をヨシヨシと撫でる。 陽太さん、立派な大人になって、組長を支えてあげてくださいよ。 俺も精進します。 ほんとにもう。 甚だ、鬱陶しい事この上ない。

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