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陽太、撃沈。
「奏多!早く起きろ!」
陽太は布団を引っ張った。
「…寒い」
パジャマ代わりのTシャツがめくり上がって見事なsix packが見えている。
38才で、これなんてムカつく。
「さっき声かけてからもう30分経ってるよ!」
「ぅぅぅ~」
小さく呻く声。
今日は昼から買物に出かけることになっている。奏多が休みの日にいるのは久しぶりのことで。
陽太は小学生のように待ちわびていたこの日を。いろんな意味で。
昨夜は、いや日付が変わってから奏多はしこたま呑んで帰って来た。
陽太は既にベッドの中で。
奏多はふらりとベッドの側まで来て陽太の頭や頬に手をやる。
いつものこと、routine workのように必ず。
そして、陽太が寝たふりをするのもいつものことで、眼を瞑ったまま優しい掌を感じている。
高三になった今では眠ってる時しか触れてはくれなくなった。
大好きな奏多。
父であり兄であった奏多。
奏多は極道だ。
組での地位は高いらしい。
陽太には組関係のことは一切知らされてはいない。奏多が帰って来れない時に代わりに来てくれる玄二の話から推測している。
玄二はガタイのいい、黒髪短髪の23才。奏多の舎弟の舎弟らしい。
奏多はマンションを何箇所か持っているらしく、ここを本宅にしているようだ。
らしい、とか、ようだ、とか、奏多は何も教えてはくれない。
知らないことが多すぎるんだよな。
中学二年のあの日、陽太は恋愛感情で奏多が好きなんだと気づいた。
いや、認めた。
その日は夏休み前の期末テスト最終日で。
友人と夕方からカラオケに行った。勿論奏多にはラインで連絡済み。
「あまり、遅くなるなよ」
そう、ラインが返ってきていた。
テストが終わった解放感もあって友人達と都心まで出かけた。
ゲームセンターへ行き、しこたま遊んでからカラオケボックスへ。
いつもよりも、かなり遅くなり慌ててカラオケボックスを飛び出した。
駅までを人混みを掻き分けて走る。赤信号で止まった横断歩道の向こうに
「あれ、かなたん?」
「どうした?陽太」
呟いた陽太に隣で足踏みをしていた友人が尋ねた。
「………」
奏多が着物姿の女の人の腰に手をやり歩いていた。奏多は女の人の耳元で何か話して、キスした?
女の人は……媚びを売るように笑った。
そして、黒い高級車に二人して乗り込んだ。
背中の汗が冷たくなった。
「陽太、行くぞ」
「あぁ」
かなたん、その人は誰?
電車に乗っても頭の中は先程の光景がグルグル回っている。
マンションの部屋で玄二が待っていた。
「遅かったんですね。心配しました」
「まだ、10時だよ!それよりかなたんは?」
「奏多さんは今日は仕事で帰られません」
「本当に仕事なの?」
「はい。そう伺っています」
玄二の冷静な表情に腹が立った。
「あれが、仕事なの?」
「はい?」
「もういい!!」
「陽太くん?」
涙が溢れた。
部屋に飛び込んで、ドアをバンと閉めてベッドへダイブした。
控えめなノックの音がしてドアが開いた。
「陽太くん……」
「来るな!」
「どうしたんですか?」
「来るな、出ていけ!」
手当たり次第物を投げつけて。
目覚まし時計がドアにあたり砕け散った。
玄二に飛びかかって拳骨でドンドン叩いた。玄二は避けもせず拳を全て受け止める。力任せに部屋の外に押し出して。
閉めたドアの前に机や本箱を積み重ねてバリケードを築いた。
時計のカケラを踏みつけて血が流れ出す。
「ハァハァ…」
自分の吐く荒い息の音が耳にうるさい。
ベッドに座り込み、泣きながら足の裏をタオルで押さえた。
かなたんの馬鹿!
オタンコナス!
どうしてこんなに腹が立つのか。
どうしてこんなに悲しいのか?
どうして涙が止まらないの?
そう…これは嫉妬。
だって、好き…だから。
ああ、僕はかなたんがそんな気持ちで好きなんだ。
かなたん…。
タオルケットを頭からかぶって泣いた。
トントンと扉を叩く音がして。
いつのまにかウトウトしていたのか…。
「陽太、寝てるのか?」
穏やかな奏多の声がする。
かなたん、帰ってきたの?
帰ってこなくていいのに。
足の裏がズンズンと鼓動を打ちかなり痛い。
頭からかぶっていたタオルケットから顔を出して見ればドアに押されてバリケードが動きだしていた。
「あっ!」
奏多の顔がぬうっとドアの隙間から見えて、慌ててタオルケットを被る。
「来ないで!」
僕の声を無視して奏多がズンズンと近づいてくる。
「陽太」
トントンと背中を叩かないで!
「陽太、怪我をしているのか?」
奏多の心配する声が聞こえる。
「………」
ガバっとタオルケットを取られて。
血まみれのタオルが目に入ったのか
「足、見せろ!」
奏多の怒った声色。
足首を掴まれ、身体をひっくり返され足の裏を見られた。
「チッ」
「えっ?」
奏多の眉間に皺がよっている。
「何したんだ?」
「…壊れた時計を踏んだ」
「阿保か、お前は?」
「………」
こんな風に怒られたのは初めてだった。
「医者へ行くぞ!」
足首を奏多のネクタイで縛られて肩に担ぎ上げられた。
夜遅くだったためか、奏多の知り合いの病院へ車を走らせる。
いつもの車じゃなくて、あの高級車で、強面の運転手付き。
車の中は甘い匂いがした。
奏多は僕のために慌てて帰ってきてくれたの?
「かなたん?」
後部座席に寝かされて奏多の膝に乗った足を上げられている。
顔を上げて奏多を呼んでも奏多は前をを向いたまま。
「かなたん!」
「自分を大事にしない奴は嫌いだ」
また、涙が溢れてくる。
「ごめんなさい」
担がれて運ばれた病院で傷口を縫われて。
弱り目に祟り目とはこれを言うんだ!と、知った。
結局、その日奏多は怒ったままだった。
あの日、奏多が恋愛感情で好きだと気づいてから陽太は『かなたん』ではなく奏多と呼び出した。
奏多はびっくりしていたが、止めはしなかった。
中学卒業時に奏多に告白をした。
「俺も陽太が好きだよ」
「だから、恋愛感情で好きなの!」
と言っても笑うばかり。
そして、のらりくらりと言い逃れる。
あれから3年。
高三の夏休み、奏多から爆弾発言を為された。
「大学は、東京へいけよ」
高校卒業後は東京の大学へ行けという。
奏多は何を考えているのだろうか?
もう、一緒に暮らしたくない?
陽太が嫌いになった?
このまま、何もせずに離れるぐらいなら陽太にも考えがある。
今日はその決行の日。
無防備に眠る奏多。
朝の自然現象が目に入る。
奏多の脚の間に入り込みスウェットを下げれば、プルンとペニスが飛び出してきた。
やっぱり、で、でかい!
「ん…」
奏多が眼を覚ます前にカプっと口に含んだ。
ちゃんとAV観ながら練習したもんね〜。
「ん、ふ‥」
裏筋を舌で辿る。
次は…。
頭をガシっと掴まれた。
「いらい…」
目だけを上に向ければ…。
見た事のない凄い形相の奏多がいた。
「何してる、陽太」
「ふぇら」
「お前は……」
「だって、奏多が僕を蔑ろにするからだろ!」
「いつ、俺がお前は蔑ろにした!」
「僕の言ってること、いつだって冗談にしかとらないだろ!」
「とりあえず、離せその手を!」
「嫌だ!続ける」
「もう、萎えたわ!」
「あーー…」
奏多のペニスが力を無くしていく。
「もぉー!」
「もぉーじゃないわ!」
手を叩かれてペニスをしまわれた。
残念無念。
奏多の脚の間でうちしがれる陽太。
「陽太、よく聞け」
奏多の真剣な表情。
引導を渡されるのかなあ。
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