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陽太のセクシャリティ
高速バスは既に春休みに入っているからか若者で満員だった。
隣の学生らしき男の舐めるような視線が気になる。
自分は人目を惹く容姿をしているのは奏多や玄二に指摘をされて知っている。
二人には男にも気をつけろと散々言われ続けた。
上着のフードを被り顔を隠して車窓を眺めた。
高速道路に乗ってからは同じような景色が延々と続く。
取り留めもなくいろんなことが脳裏をよぎる。
抗争で亡くなったお父さんのこと。
陽太を産んですぐに亡くなったお母さんのこと。
高校の友達のこと。
そして、どう思考を巡らしても奏多にいきつく。
今生の奏多との別れ。
それまでに散々泣いたからか、もう涙は出なかった。
奏多はいつの頃からか、近くにいたのに遠い人になっていたんだ。
陽太はそれに気づかなかった。
嘆き悲しむ時間は十分にあった。
これからを考える時間も。
道標は未だに定まってはいない。
奏多がいない人生。
奏多と離れて陽太はどうやって生きていこう。
どうすれば…。
まずは自分は何者かを知る必要がある。
誰にも知られずに行きたかった場所。
かの有名な新宿区歌舞伎町二丁目。
陽太は物心ついた頃から奏多が大好きだった。普通に女の子は可愛いと思う。
小中高と共学で周りに女の子は沢山いた。陽太は背が高くもなければ筋肉ムキムキでもなく、女の子からは同類のように扱われてきた。甘いお菓子も陽太にだけ回ってきたし、女の子達の中に男は自分一人ってこともままあった。
女の子に囲まれていたけれど好きになった女の子は一人もいない。
それよりも、奏多は今日帰って来るかな?なんて、奏多のことばかり考えていた。
小学校の保健の授業で男女の性行為を知った時、初めてあれ?と思った。
初めて夢精を経験した、その原因は奏多が陽太にキスをしたから、夢の中で。
陽太の好きは全て奏多に向かっていた。
周りにいる男にも女にも意識はいかなかった。
奏多に完璧なまでに拒否られた今、陽太は男女どちらを好きになるのだろう。
ただ、奏多に抱いて欲しかった。
幼い頃のように懐に入って眠りたかった。
自分が奏多を抱くなど考えたこともなかったことに今更ながら愕然とする。
いつも、されることばかり妄想していた。
今年の正月にヤケクソに玄二に抱いてと迫った。
考え抜いて放った言葉でもなく、無意識のうちに「抱いて」と、言っていたということは『ネコ』の素質があるんだろうか。
自分は男に抱かれたいのだろうか?
それを確かめに来た、ゲイの街と言われるここに。
ネットで検索した初心者でも行けるニューハーフの人がいるバーに向かう。
陽太にはネットしか情報がない。
ここが取っ掛かりにできれば。
そこで、ハッテンバになっているゲイバーのこと聞いてみようと思う。
何も知らず当てずっぽうに入るのは怖い。
東京都心にきたのは初めて。
夢の国には何度か奏多が連れて来てくれたけれど。ドキドキしながら歌舞伎町を歩いた。ファーストフードの店に入って腹ごしらえをして。道行く人を眺めて。
男同士の雰囲気のあるカップルを見て、あれはゲイカップルかっ!と、マジマジと見つめて。
まるで…いや、丸々お上りさん。
スマホで行先を検索して、いざ!オカマバーへ。
表通りから一本裏に入った通り。
赤いネオンサイン。
ギィーと音を立てて扉の中に入るだけで心臓が早鐘のように打つ。
「いらっしゃいませ〜〜」
黄色い声に迎えられて。
「はははぃ」
裏返ってしまった声が。
「キャー!何て可愛い!!」
「………。」
いかにも男が女装しましたいうニューハーフに腕をブンブンと振られる。
もしかして、選択を間違ったのか?
席に引っ張っていかれて。
二時間3000円の飲み放題コースを選択する。
よかった、ポッキリで。
今日子さんと、明日花さんは女装した元男性。
「こういう場所、初めて?」
「は、はい!」
「楽しんでいってね」
「はい!」
烏龍茶を飲みながら、雑談をして。
学生時代に周りに女の子が多かったからか友人と性的な事柄を話した事は殆どない。高校の友人達が、男だけでコソコソ話してるので顔を突っ込んで
「何の話し?」
と、聞いたら
「お前と猥談なんか出来るか」
と、顔を赤らめて言われたこともある。
意味わからないし。
雑談といっても半分が猥談で。
二人にいろいろと質問をして、
「陽太君は、確かめに来たのね?」
「まぁ」
「残念、あたしも今日子もネコだから〜」
「はぁ…」
どう、答えたらいいのか。
「客層のいいゲイバーね」
「教えてもらえますか?」
「神崎さんがオーナーのお店がいいわよね」
「そうね。あそこは学生やリーマンも多いし」
明日花が相槌をうつ。
「そ、そこ!教えてください!」
食いつくように頼んでいた。
「いいわよ。でもね…」
今日子の真剣な声。明日花の心配そうな表情。
「いくら、外見はよくても一皮剥けば皆、狼と思いなさい。自分の目で見てしっかりと判断するのよ。外見にすぐに飛びついちゃダメよ」
「はい!」
外見に関しては大丈夫だ。
だって、奏多をずっと傍でみてきたのだから。
全てを見透かすような力強い瞳。
すっきりと整った高い鼻梁。
魅惑的な厚い唇。
スラリとした体躯。
アラフォーなのに、シックスパックだし。細マッチョって奴だ。
どれもみんな陽太を惹きつけた。
陽太以外にもいっぱい惹きつけてるみたいだけどな。
オカマバーの外まで二人は出て見送ってくれた。
「結果報告してね!」
今日子の声が響く。
良い結果ならいいんだけど。
陽太は今日の寝床にしているビジネスホテルへ向かう。高速バスの中で予約済みだ。
地図アプリを見ながら道を歩く陽太は気づいていない。
玄二が困り顔で陽太の後をつけていることも。
近くの道に止まる高級車内で奏多がニヤリと黒く笑っていることも。
気づいていないことが、とても幸いなことも。
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