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陽太の危機

初めて入ったゲイバー。 普通のバーと変わらない第一印象。 もっとも普通のバーも行ったことないけど。あっ、オカマバーはある! カウンターに案内されて、カシスオレンジを頼んだ。初心者向けのカクテルとネットにあったから。 薄暗い店内。カウンター席10脚とテーブル席も同じ10卓。 結構広い。週末の夜だからかテーブル席は半分以上埋まっている。 カウンターは陽太を入れて三人。端に座る人達はカップルだろうか? 緊張のせいか、喉が渇いて仕方ない。 手は汗をかいている。 どんだけ緊張してるんだと、自分でもおかしくなる。 グラスを落とさない様に両手で掴んで一口飲んだ。 ん、甘い。 とりあえずは場慣れしないと。誰かと気軽に話すなんて出来るだろうか? その上、初体験の相手なんて探せるのか?心細くなる…。 「こんばんは、ここ初めて?」 と、声をかけられて。 黒髪に金色メッシュの男。学生?リーマンには見えない。 「はははい」 「あはは、緊張してんだ」 「いえ、あの、そそそんなことないです」 「俺達とあっちで飲まない?」 振り向くとテーブル席には四人もいる。 「えっ…僕はここでいいです」 「いいんじゃんか」 強引に手を引かれ席から転げ落ちそうになって。 「嫌がってるだろ?」 陽太の身体を支える腕。 かなたん? 「山𥔎さん」 と呼ばれた男が 「大丈夫かい」 と、顔を覗きこむ。 「はい」 かなたんのわけがない。 匂いが似てたから。大人の男はいい匂いがする。 「怖かったね」 「いえ、大丈夫です。助けて頂いてありがとうございます」 「どういたしまして」 メガネの男の前にグラスが置かれる。 乾杯をして。 優しい笑顔に緊張が緩む。 「俺は山𥔎といいます。君の名前を教えてくれる?」 「陽太といいます」 「陽太君かぁ」 端整な顔立ちをしていて物腰柔らか。 何となく、かなたんに似てるし。 この人がいいかも。 いや、もっとしっかり考えないと。今日子さんも言ってたしな。時間はたっぷりある。 奏多とは親子ほど年の差があった。山𥔎はいくつだろう。 「山𥔎さん、おいくつなんですか?」 「俺?俺は36才だよ」 かなたんより二つ下か。 「僕、こういう所、初めてで…」 「そう、じゃ俺がいろいろ教えてあげるよ」 肩を優しく抱かれて。 陽太の他愛もない話しに相槌を打ったり、時には笑い声を上げてくれる。 いい人だなぁ。 ラインを交換して。 気がつけば座ってから二時間近く過ぎていた。 カシスオレンジも三杯目だ。 「明日も会えるかい?」 「はい」 次の日、お台場や東京タワーにいった。 一人で寂しかったけれど。 今日、あの人に抱かれてみよう。 きっと僕はゲイなんだろう。 抱かれることに嫌悪感はないのだから。 でも、ホントにかなたんが良かった。 大好きなかなたんに抱かれたかった。 靄がかかる大都会東京。 あんまり、見れなかった。 昨日と、同じ時間にゲイバーの扉を押した。 山𥔎は既に来ていた。 また、カシスオレンジを頼んで。 「来てくれてありがとう」 「い、いえ」 「今夜一緒に過ごしてくれるかい?」 「ははは、はい」 「じゃあ行こう」 ドキドキ煩い心臓を抱えて連れて来られたのは大きなシティホテル。 店を出て、通りにいたタクシーを捕まえて。大人の男は手際よい。 ここまで、短時間で来た。 乗せられたエレベーターのインジケーターは高層階を示す。 広い部屋に入ると大きな窓が目に入った。 「うわぁ!」 窓まで駆け寄り、外を眺めた。 「綺麗だろ、東京の夜景は」 「はい!」 これが摩天楼。 非日常な景色。陽太はこんなところまで、来てしまった。 隣に立つ山𥔎を見上げれば、優しく微笑んだ。 …どうして、この人はかなたんじゃないんだろ? かなたん、僕今からこの人に抱かれます。 「隣の部屋が寝室だよ、先にシャワーを浴びるかい?」 首を縦に振り頷いた。 「いい、いってきます」 とてつもなく広いバスルーム。 ジャグジーになっている。ブラインドを開ければ夜景もバッチリみえる。 「スィートルームなんだろな」 どれぐらい高いんだろ? 心臓はドキドキしたままだ。 じっとバスタブの中にいるわけも行かず。 「男陽太頑張ります!」 と、口に出してガバッと湯船から出た。 悩んだ挙句、ボクサーパンツを履いてバスローブを着た。 「お待たせしま…」 最後まで言うことは出来なかった。 だって、口を塞がれたから。 穴の開いたボールが口の中にある。 山𥔎以外にも人がいて。 ヤクザ? 手を後ろにして手錠をかけられ、ベッドに放り投げられた。 「坊や、今から楽しいことをしような」 ビデオはその位置にしろ 聞きたくない言葉が耳に入って。 起き上がりたくても知らない男が肩や脚を抑えつける。 「怖いだろ?目隠ししてやるな」 優しげな山𥔎の声。 陽太の瞳から涙が溢れでる。 今日子や明日花に外見に惑わされるなと言われていたのに。 視界が真っ黒になって。 身体の上に誰かが乗ってきて。 頬を撫でられた。 山𥔎? ボクサーパンツを脱がされて。 肛門に何かを入れられた。 「△△△△!」 やめて!何をいれたの? 僕どうなるの? 四肢に力を入れてもビクともしない。 強くて硬い男の手。 涙がアイマスクに吸い取られていく。 足枷をされて、ベッドに転がされた。 扉が閉まる音がして。 物音も人の気配も感じない。 これから何をされるの、、だろう 山𥔎はヤクザなんだろうか? 三人いた男、ヤクザにしか見えなかった。 怖い。全身から汗が噴き出してくる。 どうしよう…。 どうしたら…。 今から、輪姦されるの? ビデオを取られて売られるの? 奏多が絶対に関わらせてくれなかった世界。 かなたん……。 身体の中がじわじわと熱くなる。 股間も熱い。 さっきの薬? 媚薬なの? 怖い、怖いよかなたん。 助けて! 今まで、奏多にどれだけ守られていたか身に染みてわかった。 どれだけ陽太を思っていてくれたかも。 これが奏多が関わらしたくなかった世界なんだね。 かなたん、ごめん。

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