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陽太の新生活①

(暴力、虐待行為あります。無理な方は閲覧お控えください) 春爛漫。 陽太の周りにも花びらがヒラヒラヒラと舞っている。(ように感じる) 大学生になった陽太。 弁護士兼後見人である佐伯の先を読む力のおかげで大学に通う事ができる。 それも陽太が密かに行きたい!と、思っていた大学の法学部。それを聞いた時には思わず佐伯に抱きついた。 怖い顔をした奏多にすぐ引き離されたけどね。 東京から帰ってから、怒涛の日々を過ごし、三日前に新しいマンションへ引っ越した。 奏多と住む三つ目のマンション。 そこはワンフロアーにたった二部屋の全戸角部屋の高層マンションでその最上階に住んでいる。最上階は一戸しかない…。 コンシェルジュも常駐し、指紋認証で入る。 そんで、嘘みたいに広い! 以前のマンションも最上階だけど四戸あった。ほとんど同じ階の住人には会わなかったけどね。オートロックで管理人さんが常駐していた一般的なファミリーマンションだったと思う。その前に住んでいたのは、小さなマンションの二階。陽太を引き取った奏多が小学校の近くに見つけてきたマンション。 小学校の六年生のあの頃まで住んだ。 その頃は奏多もほぼ毎日帰ってきて、帰ってこない時は美和が来てくれた。 浜岸美和。奏多の恋人だった女。(ひと) 美和は親切にしてくれた、最初は。 奏多の忙しい時やいないときは側にいてくれた。運動会や音楽会に来てくれた。陽太も嬉しかったのを覚えている。 それが、いつからか陽太を怖い目で見るようになった。 前みたいに話してくれなし、舌打ちをされ、時にきつく当たられ、暴力を振るわれた。 小六になってからどんどん酷くなる。 どんどん意地悪になる。 「明日、美和ちゃんが来るの?」 俯く陽太に奏多が訝しんだ。 「どうしたんだ?」 「どうもしない。かなたん、早く帰ってきてね」 「陽太?」 奏多に抱きついた。 奏多の背中を撫でてくれる手はとても優しかった。 次の日美和が来てくれたけれど。 目の前に置かれたレトルトのカレーライスを手で食べろと強制されて。出来ないと泣いたら、いつものように頭を何発もスリッパで叩かれた。 「部屋にいろ!」 泣きながら自分の部屋に戻って布団へ潜り込んだ。叩かれた頭が痛い。涙が止まらない。 「かなたん、早く帰ってきて…」 いつのまにか眠っていた陽太の耳に誰かの泣き声が飛び込んできた。 「静かにしろ、陽太が起きる」 奏多の低い抑えた声。 かなたん、帰ってたんだ。 ベッドから起き上がると濡れタオルが落ちた。頭を冷やしてた? タオルを机に置いて、そぉっと扉の向こうのリビングを覗いた。 ビデオカメラがテーブルの上に、転がっている。 その前に美和が座っていて。奏多の座っているソファの後ろに、若い男がいた。 「二言目には陽太が陽太がって、私のことなんていつだって後回しするじゃない」 「だからって、虐めて言い訳じゃねえだろが!」 「だって、奏多が私より陽太を…」 奏多の手が美和の頬を平手で打った。 「陽太は兄貴から預かった大切な子だ」 「…わ、わたしは恋人よ!」 「お前はもう、赤の他人だ」 「そんな…いや、捨てないで!」 美和はソファに座る奏多の足に縋り付いて、奏多はそれを乱暴に振り払った。 美和は吹っ飛んだ。 「許さねぇ」 奏多が聞いたことのない声を出した。 ベッドに戻り布団を頭から被って耳を塞いだ。 陽太も美和のように奏多に捨てられるかもしれない…。 涙が絶え間なく溢れて泣きに泣いた。 翌朝、奏多の腕の中で目覚めた時には既に美和は居なかった。 泣き疲れて眠ったのだろう陽太を、奏多は抱きしめてくれていたようだ。 奏多が朝食を作ってくれて。 「陽太、悪かったな。美和にきつく当たられてたんだな」 ブルブルブルと、首を横に振った。 「全部わかってる。怖かったな」 奏多の言葉に涙が溢れた。 「かなたん、ずっと一緒にいてくれる?」 「当たり前だろ」 「美和ちゃん…」 「美和はもう来ない」 「かなたん、ごめんね」 「お前は何も悪くない、俺が悪い」 奏多はそう言ったけれど。 奏多は美和を愛していた。 陽太も好きだった、最初は。 でも奏多と仲良くしていると腹が立った。イライラした。いい子じゃなかった。 それで美和は変わってしまった。 だから、美和は陽太が嫌いになった。 だから、二人の仲を割いたのは陽太のせい。 ごめんね、かなたん。 陽太の葛藤をよそに、次の週には二つ目のマンションに引っ越していた。 美和の置いていた荷物もマグカップも全て無くなっていたのをその時に気づいた。 二つ目のマンションに移ってから程なくして玄二がやってきた。 「陽太、玄二はどうだ?」 一か月たった頃奏多に聞かれた。 「お兄ちゃんが出来たみたい」 「そうか、気に入ったか?」 「うん。楽しい!」 「そうか、そうか」 と、奏多が好々爺のように破顔した。 美和のことは記憶の奥にしまい込んだ。 何重にも蓋をして鍵をかけた。 もう思い出すこともないと思っていた、この時までは。 大学へは電車通学したかったけれど、奏多に反対され車で送迎されている。 でも運転手は玄二だ。玄二は陽太の専属の護衛になった。 「玄二くん、本屋さんに行って欲しい。中国語の辞書を、買いたいんだ」 大学まで迎えに来てくれた玄二に頼んでショッピングモールの本屋に行ってもらい。 お目当ての辞書と、好きな作家の推理小説をゲットして。 「玄二くん、晩御飯どうする?ここで食べて帰る?かなたん、遅くなるでしょ?」 「はい。そうされますか?」 「うん。玄二くんも一緒に食べてね」 「はい。頭に連絡を入れますね」 すぐ隣で玄二はスマホを取り出した。 「はぁ〜い」 何を食べるかな?と、フロアーの案内図を見ていたら。 「陽太くん」 呼ばれて振り向いた先に、彼女はいた。 「元気そうね」 「………。美和ちゃん?」 当時も綺麗な人だったが、それに色気が加わって妖艶な感じがした。 背後にいかにもという人を引き連れている。 「あら、覚えてたんだ、あなた、変わらないわね、すぐにわかったわ、チンチクリンだもの」 スマホで話してながら様子を伺っていた玄二が陽太の前に立った。 「どちら様で?」 「こいつのせいで人生がめちゃくちゃになった女よ」 「おかしな事を言う方ですね」 「奏多は元気?」 「お話しする必要はございません、さぁ陽太さん行きましょう」 玄二に腕を引っ張られ、歩くのを即された。 「身辺に気をつけてね」 後方から笑い声が聞こえた。 「陽太さん、車に戻りますよ」 玄二は腕を掴んだままで。 陽太の心臓はドクドクと早鐘のように打つ。半端なく動揺する陽太の腰を玄二が抱えてくれた。。 車に押し込まれて。 玄二はスマホで奏多と話している。 「頭がマンションに戻るようにと仰ってますので戻ります」 「…うん」 美和が仕返しに来た。 陽太が奏多を取ったから。 どうしたらいい?

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