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お題『桜の便り』(稜而×遥)

 パパの病気がわかって、祖父がいろんな人に話を聞き、大咲ふたば総合病院の渡辺先生に診てもらおうということになって、診察の結果、そのまま入院した。  そこは病気になる前のパパが図面を引いた病院で、外来棟は四階まで吹き抜けになっていて、一階の廊下と同じ幅で天井には天窓がある。  とくに整形外科外来の前にある、待合の椅子に座って天窓を見上げると、端から端まで天窓を見ることができ、空も大きく見えて眺めがよかった。 「♪ぴかぴかひかる、おそらのおひさまよ、まばたきしないで、そらからみてるー! ぴかぴかひかる、おそらのおひさまよー♪」 迷惑にならないように、小さな声で歌っていたけれど、隣で読書をしていたお兄さんは、一緒になって天窓を見上げた。  桜が満開になったあとの強い風の日で、雲ひとつない青空と天窓のあいだを、枝を離れは花や花びらが舞っていた。  オレは首が痛くなるまで見上げていたけど、お兄さんはあまり興味がなかったらしく、すぐに読書を再開した。 「何を読んでるの?」 「『月と六ペンス』」 「お月様のお話?」 「月も、六ペンスも、丸くて光るけど、どっちをとるかっていう話、かな? まだ半分しか読んでないけど。……これが六ペンス硬貨だって」 女王の横顔を刻んだ銀色のコインを見せてくれた。 「きれい!」 「あげるよ。家に何枚かあるから」 「ありがとう!」 受け取った手のひらに、どこかから入り込んできた桜の花びらが重なった。      * * *  フランスの自宅の納戸を片づけていたレオから、古いクッキーの缶が送られてきたとき、庭の桜の木は満開だった。 「チビ遥ちゃんの宝箱、オープン!」  ビー玉やおはじき、プラスチックの宝石、古い鍵、チョロQ…… 「六ペンス硬貨だ」 隣で手伝っているのか、眺めているのかわからない稜而が、拾い上げて手のひらに載せる。 「ご存知なのん?」 稜而はうんうんと頷いた。 「俺も何枚か持ってる。昔、父さんとイギリスへ旅行したときに、ホテルのドアマンにもらったんだ。もう発行されてないらしい」 「そうなのん。遥ちゃんは、本を読んでいたお兄さんにもらったのん」 「ふうん。持っているといいことがあるらしいよ」 稜而が手のひらに載せた六ペンス硬貨を見ていたとき、外でびゅうっと強い風が吹いて、細く開けていた窓から六ペンス硬貨の上へ、桜の花びらが重なった。
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