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お題『雨上がり』(稜而×遥)

「きゃーっ!」 重量物が床に激突する音が聞こえ、遥の悲鳴が響き渡って、稜而はゲームのコントローラーから手を離してキッチンへ行った。 「どうした? 大丈夫?」 「うわああああああん!」 遥はキッチンの床に膝を突き、若草色の目を見開いて呆然としていた。  遥の視線の先には横倒しになったホーローの保存容器があり、爽やかな香気をを放つぬか床と、水分が抜けた艶めくキュウリが飛び出していた。よく見れば床にも、キッチンの壁にも、システムキッチンの扉にも、遥の衣類や顔や髪にまでぬか床が飛び散っていた。 「大惨事だな……」 稜而は思った通りのことを呟いて、その瞬間に遥は大きく口を開けて上を向き、大声で泣き始めた。 「うわーん! ぬーかーどーこーーーっ!!! おばあちゃんの、ぬかどこーーーっ!!!」  白い肌の上をぽろぽろと涙の粒が転がっていく。 「まいったな……、どこから手をつけようかな」 前髪を吹き上げると、ウェットシートを取り付けたワイパーを持ってきて、遥の隣までの道を拭いて進み、隣にしゃがんで濡れている頬にキスをしてから、ぬかを払い落とした。 「まだ容器に残ってるぬか(・・)があるから、明日、おばあちゃんに電話すれば、解決策を教えてくれると思うよ」  稜而はさらに自分が進む道をワイパーで拭きながら進んで、倒れているホーローの保存容器を引き起こして、残っている中身を遥に見せた。 「な? だから諦めて泣かないで、遥」 稜而が顔をのぞき込むと、遥は頷きながら、両手の甲で交互にぐいぐいと自分の涙を拭った。 「一緒に片付けよう?」  遥はまだ鼻水をすすりながらだったが、稜而と一緒に飛び散った床や壁や扉からぬかを拭き取り、仕上げに一緒に雑巾がけをした。 「さあ、最後は遥からぬかを洗い流そう」  稜而は遥を抱き上げるとバスルームに運んで、頭からシャワーの湯を掛けた。  花の香りがするシャンプーでミルクティ色の髪を洗い、手に泡立てた石けんで全身を洗いながらくすぐった。顎の下をくすぐり、首をくすぐり、脇腹も、足の裏もくすぐった。 「ふふっ、やーん、くすぐったいのん! きゃはは、くすぐったいのーん!」 遥が大きく口を開けて笑うと、稜而も笑顔になった。 「よかった。遥の目から雨が上がった」
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コメント
2件のコメント ▼
むに 2018/6/10

想像しただけで悲惨な風景。 渡辺家のキッチンは広そうだからいいけど、ウチで…と考えたら萎える(っ´;ω;`с ) 手間のかかるぬか床をひっくり返した遥ちゃんの気持ちわかるなぁ。 (いや、漬けてないからわからないか…) おばあちゃんならなんでも解決してくれるし、稜而もやさしくて ふふふーってなるよねぇ!!

ぬか床をこぼすなんて、本当に悲惨。 これを片付けるのかと思うだけで、本当に萎える。 卵一個落としただけでも、ためいきついちゃうのに。 手間暇かけてたものがダメになるのは悲しいよねぇ。おばあちゃんから分けてもらったものだし。 おばあちゃんはベテランで優しくて、稜而はゲーム中でもすっ飛んできてくれて、遥は幸せ!

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翌日、おばあちゃんに電話で指南してもらい、ぬか床は少しずつ復活していきました。