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お題『口移し』(稜而×遥)

「♪むっかっしっ、むしばーの、はるかちゃんー! よなかにひとりで、ないてー。はいしゃへいって、ないてー♪ あれ以来、歯磨きは念入りなのん。デンタルフロスも使ってるわー」 ドラッグストアのビニール袋を振り回しながら帰宅した遥は、バスルームの棚に買ってきた歯磨き粉とデンタルフロスを置いて、それからぴょんぴょんと食品庫へ移動した。 「せつこ、それ……。ああ、これ以上は言えないのん。遥ちゃん、また泣いちゃうんだわー!」 悲しそうな顔をしながら、食品庫の棚から箱を引っ張り出し、買ってきたドロップスの缶を入れると、チラシの裏紙にマジックで文字を書き、さらに黒い仮面やムチやハイヒールや網タイツの絵をひょろひょろ描いて、箱に貼った。 『遥のおやつ箱。無断で食べたら、遥ちゃんを『じょうおうさま』と呼ぶこと!』 「うしししししし。稜而はご主人様気質って、遥ちゃんは知ってるのん。遥ちゃんをじょうおうさまって呼ぶのは、屈辱なんだわー」 箱を棚へ戻す手に、温かな手が重なった。 「ふうん」  稜而は貼り紙の文字を読むと、箱を引き出し、ポケットから取り出したコインでドロップスの缶を開けて、転がり出た一粒を 「はい、遥。食べて」 と、遥の口に放り込んだ。 「うふふふふふふ。遥ちゃんのおやつは万全のセキュリティに守られてるのん。『じょうおうさま』の作戦勝ちなんだわー!」 稜而は、勝ち誇った笑みを浮かべている遥の顎を指先で捕らえると、自分の唇を重ね、舌を滑り込ませて、口の中のドロップを自分の口の中へ攫っていった。 「箱からもらわなければいい」 口の中でカラカラとドロップを転がしながら片頬を上げる稜而の姿に、遥は「むきーっ!」と叫んで地団駄を踏んだ。

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