5 / 23
お題『看病』(稜而×遥)
アラームをセットせずに眠れる日曜日の朝。
稜而は自分の顔を覗き込む気配で目を開けた。
「おはようございますなのん。お加減はいかがですかー?」
天井を背景に、遥の顔が視界いっぱいに広がっていた。
「お、おはよう……」
「お熱はありませんか?」
額をくっつけて体温を測ると、遥はすぐに両手を広げて自分の口を覆った。
「あーん、大変なのん! いっぱいお熱がありますですのん!」
「…………は?」
広いベッドの隣のスペースにぺたんと座る遥は、白衣を着ていた。左袖に筆記体で『Tetsumon』と刺繍が入っていて、稜而が大学時代に使っていたものだとわかる。
「お胸の音も聞きましょうねっ」
稜而のパジャマのボタンを外すと、稜而が書斎に置いていた聴診器を耳に装着し、全く見当はずれな場所にチェストピースをあてて、ふむふむと分かったような顔をしている。
「遥先生、音はどうですか?」
稜而が込み上げてくる笑いをこらえて訊くと、遥はとても深刻な顔をした。
「とってもたくさん心臓がドキドキしてますのん。これは重症です」
「なるほど。遥先生のお見立ては? 病名とか、完治するまでの見込みとか」
「コホン、コホン。これは世界でたった一人しか罹らない、『遥ちゃん大好き病』です。とても幸せなことに、一生治りません」
「そうですか。それはよかった。こんな幸せな病気なら、一生罹っていることにします」
稜而が両腕を遥に向けて広げると、遥は笑顔で胸へ飛び込んできた。
「あーん! 稜而の病気が一生治らないように、遥ちゃんがずっとずっと看病してあげるのーん!」
ともだちにシェアしよう!