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04-05

 手塚演じる内田透(うちだとおる)は、高校卒業後、生まれ育った島を出て本土で就職。  大人しい性格が災いして、他人の過失をなすりつけられ退職に追い込まれる。失意のうちに地元に帰って見れば、両親からは『どうして帰ってきたんだ、社会でやっていけない人間に育てた覚えはない』と縁を切られる。  仕方なく幼馴染がやっている海の家に転がり込み、東京から来たヒロイン、槻山嶺奈演じる江川菜穂(えがわなほ)に出会う。  菜穂は会社の上司と不倫関係にあった。ある日、菜穂の目の前で少女が万引きし、係員に見咎められるところに居合わせる。少女が否定し力づくで逃げようとしたため、騒ぎは余計に大きくなり周囲の注目をひいてしまう。  その日から、裁判沙汰にもなりうる上司との関係を誰かに暴かれるのではないかという妄想に取り憑かれてしまう。同僚に、上司の妻に、家族に、友達に、口々に非難される映像が頭から消えない。  精神的な理由で長期の病休をとり、上司ともうまくいかなくなった。泥水の中で生きているかのような毎日に区切りをつけ、心をリハビリするため、かつてテレビで見た美しい瀬戸内の島に旅立つことを決心する。  海の家を経営する幼馴染も問題を抱えていた。島は過疎化が進み、去年最寄りの本土に整備された海水浴場ができたため極端に夏の海水浴客が減った。通常営業している定食屋の売り上げも厳しく、本土への移住を希望する妻ともうまくいっていない。今年、妻は海の家を手伝わず、本土の実家へ帰ってしまった。  ここまでは映画らしいストーリーのような気がする。でもこの後、他にも訳ありな三人と集結するあたりから雲行きが怪しくなる。料理人、ミュージシャン、それからイベントプランナー。  六人で紆余曲折ありつつ、高校生の部活動か文化祭に近いノリで夏祭りを成功させる。 「よっしーはさ、素のままで役に合ってると思うんだよ」  呼び名の訂正は無理なようなので諦めた。 「一見繊細そうに見えないこともないし。ツンデレぽいとこも」 「はっ?」 「問題は真夏のライムサワーみたいにシュワっと弾けなきゃいけないとこだよね。大人の青春!俺の意向じゃないけど」 「じゃ、言われたこと無視して、自分が思うように撮ればいいんじゃないですか?」 「それができたら、今、俺ここにいないよ。はいはい、なんでもやらせてもらいますってキャラでここまできたんだから。この規模で勝手なことやったら、俺、完全仕事干されちゃうね」  秀野が言うことは解りすぎるほど理解できた。こんな話、この業界じゃいくらでもある。秀野を看板にして批判ネタでマスコミを煽り注目度を上げて、そこそこの結果を狙う。  秀野自身は人気も定評もある役者だし、ある程度来場者数は稼ぐと見込み、期待値が低ければ思ったよりよかったという評価を得る可能性もある。  主演の選び方はじめコンセプトからテレビ寄りで、ターゲットの年齢層も低め。はなから芸術的評価は視野になく、広告と話題性で売るのが今から目に見える。  生贄は今のところ、槻山嶺奈。ぱっと出の女優がこけたところで問題にはならない。秀野は監督としては致命的でも俳優としての評価は無傷だろう。手塚は知名度が低いから、余程のことがない限り話題性がなくスルーの見込み。本当にそんなかすり傷で済むんだろうか。グループ脱退の理由にもされかねない。 「仕方ないことは仕方ないとして、やってやろうぜ、よっしー」 「だから、やめてくださいって、よっしーって」 「この業界の垢にいじり倒された映画を、めちゃくちゃ面白かったって言わせてやる。カンヌ目指すぞ!だから、よっしー頑張って!」 「他人頼みかよ!」  どこまでふざけているのかわからない秀野に、構わずタメ口で返してしまった。秀野は咎めることもなく、にやにや笑っている。  やっぱりこの人、怖い…そう思って、掴みきれない男の顔を見ていた。

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