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06-01 三日目→四日目 / side 手塚佳純

 こんなにも次々と橋を渡って移動するのは、手塚には初めてのことだった。  初日に見た優美なラインを描く建造物に惹かれ、少しネットで調べて、世界でも珍しい吊り橋なのだと知った。それぞれの島を繋ぐ橋は地形に合わせて違うフォルムや構造を持つ。  島の間が近いと架橋が簡単になるような気がするが、麻生に説明された通り、島の間を貫く海峡の流れは狭いことでより速くなり難所と言われるほど工事は複雑になるらしい。  そんなことも感じさせない雄大で洗練された橋を見るのを少し楽しみにしていた。  こうして一日にたくさんの橋を渡ってあちこち行ってみると、どうしてこの映画は橋が架かる前の設定なのかと、どうにもならないことを思う。自分なら、閉ざされた島からバンバン行き来できるようになった後の人の気持ちが知りたいし、どこにでも行きたいところに行けばいいじゃないかと思う。  映画の印象は直接麻生につながっている。本当は出て行けるのに島の閉塞感にこだわり、しがみついているのは人の方だと感じてしまう。  手塚には理解できないことばかりだが、自分だって、アイドルやグループにしがみついているのかな…と考えずにいられない。  だからこそ麻生との間を無駄にかき回してしまうのかもしれない。人間関係に基本クールなはずの手塚がらしくもなく、面倒くさいことをわざわざ作って麻生に絡んでしまう。 「さっきの景色、秀野さんと見たんですか?」  そんなこともどうでもいいのに、過ぎ行く光るラインの間を進みながら意地悪く尋ねる。 「……俺はロケハン行ってないから、あそこは初めて見た」  不自然に時間はかかったけれど、麻生にしてはいい返しだ。最後のロケ地に向かっているとき、麻生が心ここにあらずなのは気づいていた。秀野がらみなのだろうと簡単に予想がついた。 「あれ、カメラとか機材持って登るの大変そう。こんなドロドロになっちゃったし。どうして同じ島のもっとアクセスいいところで撮らないんだろう」 「秀野さんがあそこで撮りたかったからだろ?」 「ふーん、こだわりってやつですか。他の場所じゃだめなんでしょうね。あー、手のひら、痛いなー」  麻生の口元がわずかに引き攣ったのを手塚は見逃さず、わざと空気を変えるように子供っぽく言った。右の手のひらに細かい赤い筋が入って擦り切れていて実際痛んだが、仕事や生活に支障がない程度で本当によかった。  体が資本の仕事柄、自分のコンディションには常に気をつかっている。以前アクロバティックなダンスで足首を痛めた時、数日仕事に穴をあけたせいでさらに身に染みていた。 「悪かったな。救急セット持ってきてるから、帰ったら見せて」 「用意いいですね」  もう少しあからさまにつついていじめてもよかったけれど、手塚はそこで引いた。  山の中で自分はゲイだと言った時の麻生の反応が面白かったし、滅多に見られないという橋のライトアップが見られて気分を良くしていたからだ。

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