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07-02
畳に布団を敷き、灯りを消してスマホで『SF』のライブ映像を見る。最初に見た夜から寝る前の習慣になっていた。
自分には見せない部分を覗いているという感覚が、少し後ろめたくも面白い。単純に画面の中で気持ちよく体を動かす手塚は魅力的に見えるし、アイドルライブの演出もノリも変わらず興味深い。
手塚が『クール担当』であるだけでも大概笑えるが、MCでクール担当を他のメンバーがいじって笑いをとるのは定番らしく、照れたり、拗ねたり、笑って誤魔化したりすると、それだけで嬌声が上がる。『手塚くん可愛いー!』なんて声がかかると、麻生の方まで恥ずかしくなってくる。
やっぱり多大な覗き見精神かもしれない。
酒がまわってうとうとと眠りに引き込まれながらも、手塚の声だけは簡単に聴き取ることができる。やっぱりいい意味で胸を擽られるようないい声だと思う。
「なに?やっぱ『SF』じゃないですか。三年前かな、このライブ。なんでこんなの見てんの?内緒で俺のこと見てたの?やーらしー」
その魅力的な声が間近で聞こえた。
いつの間にかそのまま寝ていたらしく、ずしっと背中にかかった重みに目が覚めた。うつ伏せになった肩の上には手塚の顎が乗せられている。やたら体温が高く、ふわんとアルコールの香りがする。
「おっ前、酔っ払ってるだろ?ライブで言ってたけど、酔っ払うとやたら絡むってマジネタかよ」
「んー気持ちいいですー。いい感じに酔ってますー」
曲に合わせて小さく歌詞を口ずさんでいるのが、すぐ耳元で響く。後ろから見えやすいようスマホの角度を調整するため、がっちりホールドするように麻生の肩に両腕が回されている。本気でたちが悪い。
「懐かしい、この曲。最近ライブでやんないんだよね。あーここのフリ好き。踊りたいー!」
「どこでこんなに飲んだんだ?」
「えー、そのへん」
「その辺ってどこだよ。てか、勝手に襖開けるなよ」
「だって『SF』の曲聞こえたから、まだ起きてんですかーって声かけたんですよ。で、うんって麻生さん答えたから、入りますよーって言いました」
動画サイトが再生されっぱなしになっていたらしい。しかも、いつもはイヤホンで聴くのに、酔っ払っていたから部屋の外まで聴こえる音量で流してしまっていたようだ。
甘えるように麻生の首元に手を回し、襟足に顔を埋めてくるからバタバタともがく。酔っ払い特有にぐたりと力が抜けていて余計重たい。麻生も酔っ払っていて頭がふわふわしているせいで、抱きつかれていることよりも、のし掛かられて重いことに腹が立った。
「この酔っ払い!俺の上から降りろ!重たい!」
やっとの事で体の上から自分より体格のいい男を引きずり下ろすことができてほっとしていると、すぐ横に転がった手塚は、すでに小さな寝息を立てていた。
「おいっ、ほんとになんなんだこいつは…」
すぅすぅと健康的な呼吸音が響く。仕方ないから腰のあたりにタオルケットをかけてやってから自分もパタリと転がり、スマホの灯りを消して手塚の横で目を閉じた。
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