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09-02

 だからこの映画は、手塚が思うようなものじゃない。  単純に秀野が撮りたい映画を撮る。麻生を撮影に呼んだのは、秀野のやり方を否定した麻生に、自分は信じたやり方でここまで来たと証明するためだ。夢の実現の中に自分はいない。  確かに秀野と過ごした数年は綺麗なものも醜いものも、麻生の中に特別な意味を残した。輝きも喪失も強烈すぎて、秀野と以上の深い人間関係を今まで持てなかった。  特に、男に恋愛感情を向けることはなかった。今考えてみると、秀野と重ねるのが怖くて自分から避けていたのだ。  それなのに手塚は麻生の中に飛び込んでくる。苛立ち、驚き、喜び、感嘆、後悔。いつも鮮明な色を胸にぶちまけてくるから、どんな感情にも手加減なしに反応してしまう。  いつも予測がつかない。知らなかった手塚という人間のことを、同時に気づかなかった自分のことを、嫌という程感じる。  秀野との互いにわかりすぎる近さとは全然違う。秀野とは傷つけ合う時ですら、最も深く傷跡を残す場所を知っていた。  手塚に出会わなければ、遊びで、冗談にしても人前で演技のまねのようなことはできなかっただろう。  あの瞬間、たったひとりをあっと言わせることしか考えていなかった。自分にそれができるなら演技しかないと思った。  映画の台詞も、自分ならこう表現するというのを手塚の前でなら肩の力を抜いて見せることができた。  気持ちも、体も解放されていく。頑なに自分を縛り付けていたものは、本当は簡単に越えられる。そんな風に思えること自体不思議なことだった。  それにしても!昨日のことは、手塚がどこに固執しているのかがさっぱりわからないままだ。いつもに増して訳がわからなかった。  むき出しの言葉を思い切り投げつけてきておいて、子供のように頼りない泣きそうな顔をしていた。『もういいから家に帰ろう』と言ってしまいそうになった。鍵を開けて家に入ったら、息苦しいほどしんとしていた。それから、ぐるぐるぐるぐる、手塚のことを考えている。

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