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「大丈夫?麻生さん…」 「ん…ごめん。大丈夫…。なんか興奮しすぎたみたい…遠足前に興奮しすぎて鼻血出す子供と一緒…」  なにその例え…と小さく笑って言いながら、素肌を優しく触れ合わせてくれるから安心する。 「そんなに、俺のこと好きになった?」  茶化すように言われてみて、どれほど手塚のことを好きなのか考える。いつの間にか、言葉では言い尽くせないほど好きになっていた。  体を寄せ合って、このまま眠ってしまうんじゃないかというほど時間が経って、午後の撮影立ち会うの?と手塚が聞いてきた。ん?と疑問形で答えると、もう一度麻生を腕に抱き直す。 「行かなきゃいけなんだったらアラームかけた方がいいし、少し眠ったら?」 「行かない」  きっぱりと麻生は答える。 「行かないし、寝ない」  台詞ないから、来ても来なくてもいいって言われてる、と付け足す。本当はなにがあるかわからないから一応行こうと思っていたのに、もう行きたくない。言いながら胸が痛くなる。なんだか切ない。 「お前といたい。離れたくない。まだ突っ込まれてない。…佳純…、お前のことが好きなんだ。気づいたら、どうしようもなく好きになってた…」  手塚の背中にぎゅっと抱きついたまま腕の中でぶちまける。好きだという気持ちが溢れ出て、ひたひたと心を浸していく。 「今の、もっかい言って」  顎に手を添えられ、抱き合っている男と視線が合う位置に顔を引き上げられる。 「俺の顔見て、もっかい言って」 「好きだよ、佳純。どうしようもないくらい好きだ」  大きな黒目がちな瞳を見つめながら伝えると、俺も好き…と抱きしめられる。 「あれももっかい言って。俺にめちゃくちゃに突っ込まれて啼かされたいって…」 「言ってねーよ!」  ふふっと軽やかに手塚が笑って、息が触れたあたりがふわっとくすぐられる。乱暴な言葉とは反対に甘やかに素肌を抱きしめ合ってキスをした。 「名前、呼ばれるのいいね…嬉しい」 「お前も聖って呼べよ」  口づけの間にこもった息に紛れさせて言ったが、本当に呼んで欲しかった。手塚の低く響く、ざらりと胸の奥を撫でるような声で。

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