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13-01 その後SS 真夏の果て / side 麻生聖
** おつきあいを始めてしばらく経ったふたり…のお話。
麻生視点のせいで暑苦しいです!(『しゅうぞうって呼んでいいですか』by手塚)
本編とこのSSの間に神崎くんメインのSSがあります。(他サイト)
神崎くんが映画のロケ中島に遊びに来て、成り行き上、秀野がいるところで手塚に「抱かれてもいいと思ったことがある。でも一番近い友達でいることを選んだ」と告白するお話です。
ちょっぴりふたりのその後が出てくるので先にご説明。
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一度目のアラームで麻生が目を覚ますことはほとんどない。平均三度目で布団の中でもぞもぞ動き始め、それでも眠たいのでもぞもぞと転がりながらストレッチを始めるのが最近の習慣だ。たっぷり三十分ほどベッドでうだうだしていても、隣の手塚は瞼一つ動かさない。
それなのに仕事がある時の手塚は、『たらららららーん』という『シャイニング・フューチャー』の曲のイントロが『たら…』と始まったところで、ピッっとアラームを消して起き上がる。顔は恐ろしく不機嫌だけれど、その反射神経に麻生は驚く。
今日はまだ起きなくてはいけない時間ではないので、麻生の二度目のアラームが鳴っても、手塚は身じろぎひとつせず眠っている。
微睡みの中で、手塚の髪が頬をくすぐる。くすぐったいけど気持ちいい。起こしたくないので、なるべく体には触れない。薄目を開けたら艶やかな黒髪が飛び込んできて一気に目が覚めた。
昨日の夜も見たのに、新鮮すぎてまだ慣れない。映画の公開を前にテレビやイベントなどで宣伝が始まるから、役に合わせて黒髪に戻したのだ。ついこの間までは金髪に近い明るさの髪がサラサラとシーツに広がっていたのに。
最初こそそちらの方が見慣れなかったが、金髪といっても柔らかいハイトーンのアッシュベージュは手塚によく似合っていて、すぐに馴染んだ。
アッシュベージュという色の名前を麻生は手塚が口にするまで知らなかった。朝ストレッチをするのも手塚の影響で、こういうなんでもない小さなことがひっそりと手塚から自分に浸透してくることが嬉しい。
手塚はアルコールが入っている時以外は寝息をほとんど立てず、枕も使わない。キラキラした髪が顔にかかり、ぺたりとシーツにくっついて静かに眠る姿は球体関節人形のようだと思った。目を閉じると長い睫毛が際立つ。鮮やかに表情を変え、伸びやかに動く、起きている時の姿とのギャップに、何度となく夜を一緒に過ごしても、また幾度も心奪われた。
落ち着いた髪色の手塚は金髪の時より禁欲的に見えるのに、なぜか生々しい男の色気を感じさせる。奔放に抱き合っては海を眺めてばかりいた、夏の休暇を思い出すからかもしれない。
あれから、秋、冬、春の季節を一緒に過ごして、もうすぐまた夏がやってくる。
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