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 麻生は小さく笑いながら、理性を総動員させて恋人の誘惑を逃れた。ベッドの横の床に座って、まだ眠たそうな瞼に口づける。唇を受け止めるとき、手塚は素直にそっと目を閉じた。  くったりとシーツに身を落とす男の髪を指で梳きながら、無防備な表情に甘やかな愛おしさがこみ上げてくる。 「俺はお前のこと思い切り甘やかしたいけど、本人と話さなきゃわかんないと思うよ?さっきから考えてるのって神崎のことだろ?」  麻生が言うのを聞いて、手塚は何か間違ったものでも口にしたかのように口元を歪めた。 「いい大人が人の恋愛についてどうこう言えるか。三十過ぎた男とつき合うのにプラトニックもないだろ…」  手塚の柔らかい髪をくしゃくしゃっと乱すと、もっと、とねだるみたいに手のひらに頭を擦り付けてきた。だいぶダメージを与えられているようなので、よしよしと撫でて、自分が乱したところを整えてあげた。 「髪、明るいのも似合うけど、今のもいいな。よく似合ってるし、なんかそそる」  ほんと?と小さく言って、自分の髪をひとつまみ指に挟み、先まですーっと滑らせ落とした。いつもなら煽るようなことを言ってきそうなものなのに、どこかぼんやりとしている。  こんな甘え方を今まで手塚がしてくることはなかったから、きっと一番子供っぽい部分を神崎に見せていたんだろうなと思う。  シャワーを浴びた後身支度をして、手塚にいってくると声をかけた。シーツの上から動かないくせに、んっと顎を小さく上げて無言でキスをねだってくるから、ベッドのところまで行って可愛い要望に応えた。  ぱたりと気怠げにもう一度シーツに沈めた体を肩から抱き上げ、両腕でぎゅうと抱きしめる。 「いつもに増して可愛いけど、お前ずいぶん気が抜けてるなー。『秀野とのセックス気持ちいい?』って聞けば?で、秀野に『神崎泣かしたら殺す!』って言ってやれよ」  言えるか…苦しいって…と、手塚が腕の中で呻いた。さらにギュウギュウ力を込めて絞ってやる。過不足なく鍛えられた体がしなるほど抱きしめ、本気でふたりの距離をゼロ以下にする。どくどく音を立てる胸が重なって押しつぶされる。 「俺は佳純とのセックスが最高に気持ちいい。相性いいからだけじゃなくて、お前に愛されて、お前のこと愛してるから。俺ってすごい幸せ。おんなじように、大切な人に幸せでいてほしいって思うのって当たり前のことだよ。以上!」  顔も全部手塚の首元にすっかり埋めて、もう一度さらにきつく密着した。涼しくなったうなじに、唇を強く押し当てる。  離れてみると、手塚はすっかり目を覚ましていて、まんまるな瞳で麻生を見ていた。 「……ただ俺が、史弥を取られるのが嫌なだけかもしれないよ。別の人ならまだしも、秀野さんって、俺の鬼門っぽいし…」 「そう思うのだって普通だよ。可愛い子を嫁に出すときは、やけ酒って決まってるだろ?俺が朝まででも付き合うからさ」 「俺が気がすむまでつき合ってくれんの?聖さん、酒弱いくせに。俺酔って絡むからね」  手塚は麻生の肩に両腕を乗せかけ、もうはっきりと綺麗な唇の両端を上げて笑っていた。

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