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13-07
映画『真夏の果て』プレミアム試写会の舞台に上がった手塚を見た時、麻生は思わず「うげ」っと変な声を出しそうになった。麻生は舞台脇前方の近い場所にいて、はっきりと手塚の姿が見えた。
細身の黒いデザインスーツ姿で、シルバーにキラキラ光る細幅のストールを首元に巻いている。落ち着いた色の髪も計算しつくされたハネがつけられてしっかりセットされ、たった今ファッション誌から出てきたみたいな見た目だ。ナチュラルメイクだけれど絶対アイラインが入っていて切れ長の目がいっそう印象的に見える。
写真やビデオでは時々見ていても、アイドル然とした手塚を実際に見るのは初めてで、軽いショックを受けてしまった。映画の役に合わせて素朴な島の青年風で出てくるような気になっていたからかも知れない。
舞台の真ん中に立つ無駄にキラッキラした男が自分の恋人だなんて、不思議な気分この上ない。
進行役のテレビアナウンサーが秀野に挨拶を促した。半年以上ぶりに見る秀野にも不思議な感覚を覚えた。
かなりの数のメディア取材が入っていて注目を集めているので当然だが、いつもに増して誠実、爽やか、年相応以上に落ち着いた貫禄を感じさせる。掴みきれないへらへらした雰囲気は微塵もない。
『どんな役でも俺がやったからよかったって思わせる』
『絶対に自分の映画を撮る』
そう言ったずっと若い頃の秀野を思い出す。
舞台の上のふたりを見て、アイドルであり、俳優兼監督であり、仕事への徹底ぶりにしんと胸に緊張が走った。自分はまだまだだ。自分だってもっとやれることがある。やりたいことがある。
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