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そのまま手塚の背に両手を伸ばしながら口を開いた。
「今日のお前見て、……惚れた。映画も舞台挨拶も全部、すごくよかったよ」
色濃い瞳の深いところが自分を映し輝いている。麻生は複雑に色を反射させる虹彩をじっと見つめた。
「それが言いたくて俺のこと待っててくれたの?」
重たい体を、胸が重なるまで腕で引き寄せる。
「それもあるけど…映画始まる前から、お前のこと抱きしめたくて仕方なかった。それからずっとお前にどんどん惹かれっぱなしで、死ぬほど会いたかった」
頭ごとかき抱くように固定され手塚の顔が近づくと、ただ抱きしめたくてなんて言っておきながらそれ以上の期待にじんと胸が疼く。
今日ずっと思い続けた男に、噛みついてくるようなキスを思いのままされてしまえば、どろどろに溶け出していくしかなかった。体はじんわりと熱を持ち、さらに濃厚なキスが欲しくなる。
なのに手塚は直接床に横たわる麻生の体を今更気遣うように、片手をついて密着させていた上体を起こした。唇が離れていくとき、湿り気をたっぷり含むリップ音にますます名残惜しさが募った。手塚は足だけ絡めたまま麻生の横に寄り添い、片手で麻生の耳の後ろあたりの髪をもてあそんでいる。
「ほんと、可愛いこと言うなー。で、こんなくたくたに熱くなってるのに、重いからどけとか言うんだから、どこまでひねくれ虫さんなの?」
「誰がひねくれ虫だ…」
大きな手でするりと頬を撫でられ、顔を少しだけずらしてその手に口づけた。
ドアの前だというのに、もう起き上がる気が全くしなくなるほど、体の火照りを持て余していた。両腕とも上に投げ出してぐったりと床に寝そべったまま、潤んでいるだろう目で手塚を見上げる。手塚の艶めいた視線が一層体をじりじりと灼いた。
「…佳純……」
いつまでもその先がないから、思わず目の前にいる男の名を甘えるように呼んでしまう。
ゆるりと手を伸ばすと、手塚は迷わずその手を下からすくうようにとり、目を合わせたまま指の背にそっと口づけた。こんな格好つけた仕草が様になるのは、手塚がアイドルだからか、手塚に恋する麻生の判断基準が崩壊されているからか。柔らかに結ばれた手をぎゅっと握り返す。
「…お前が触るとこ全部溶けて、ばらばらになって、壊れそう……。もう、ばらばらにして…」
指を交互に絡める繋ぎ方に変えた手塚が、もう一度その手を口元に引き寄せた。手に感じる柔らかくて熱い唇を別のところに欲しくなる。
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