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「聖さん、俺のこと誘うの上手過ぎるよ」  器用に唇と歯を充て人差し指だけを引き剥がされ、温かく滑る口内に引き入れられる。どろりと唾液を絡ませられ、舌に弄ばれる特別扱いにこれ以上ない喜びを感じる。  口淫を思わせる舌使いに誘われ、自ら中指を差し入れた。手塚は二本目も分け隔てなく受け入れ甘噛みし、舌を絡める。形のいい唇が指の開きに合わせて歪み、口の隙間から赤い舌の蠢きが覗く。その艶かしさを直視できず、指をゆっくり引き抜いた。  あっさりと温かいところから解放されたのが物足りなく、手を繋いだまま濡れた指を自分の口に含んでみる。何度もキスを交わして、唾液の味もその粘度まで知っているはずなのに、可愛がられた指が纏うのはそれ以上の甘さだった。 「舐めてみて、なんか甘い」  手を伸ばすと、手塚は躊躇なく濡れた指をもう一度口に含んで舌を這わせた。さっき味わった唾液より、欲しい男に指を食まれる方がさらに甘くて胸が騒ついた。きりがない。この男が欲しくてきりがない。 「聖さん、無意識でいつも俺のこと煽るよね。こういう時の計算能力ゼロ以下なのに」 「ゼロ以下!人を『天然』みたいに言うな。俺だってちゃんと考えて誘えるよ」 「じゃ、俺のこと思いっきり誘ってみて」  手塚にそう言われてみて、経験とコレというシチュエーションの語彙を総動員させ、誘い文句を考える。 「早くお前が欲しい。お願いだから、ぐちゃぐちゃにして」  ぶほっ。男の色香を溢れかえるほど纏っていた男が、無防備に息を吐いた。もーウケる…と、涙を目に滲ませて笑っている。総力で誘いをかける気持ちで言ったのに、麻生にはどこが笑いのツボだったのかさっぱりわからない。 「もうね、聖さん、何も考えない方がいいと思う。普通にしてても、ちゃんと俺が誘われたいとき誘ってくれてるから」 「笑うな。本気だから!」 本気なんだ、かわいー、いくらでもあげる、でも泣かないでね。幾つものキスを降らせながら、手塚は心地よい低い声でキスの合間に囁いた。  やっと潜り込んできた舌が口内の粘膜をまさぐり始めると、逃がしたくなくて夢中で自分の舌を絡める。息継ぎさえうまくできなくて、麻生は喉の奥で呻いた。 「…んっ……」  器用に体重をかけないよう覆い被さる手塚は、舌を抜き取るタイミングまで器用だった。 「ベッド?お風呂?連れてってあげるよ。どうする?」  腰を抱かれながら聞かれても、それに答える判断力は残っていない。 「お前の腕の中ならどこでも」  堪らず吐息とともに吐き出すと、望み通り腕の中にきつく抱かれた。また息苦しくなって、うっとりとむせ返る熱に漂う。 「なーに、これ。こんなドア前の誘惑、知らない。俺、まだ靴脱いでないんだけど」 「さっさと脱げ。もう待ちきれないから…」 「誰だっけ?ここで俺のこと引き止めたの。もー手加減しないかんね」  そう言いながら優しいキスをくれる男が、麻生を甘やかさなかったことはない。

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