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大切な 第13話

僕は冷蔵庫の扉を開けたまま考え込んでしまっていた。 ピィピィッ。 その電子音に僕はハッとして暫く冷蔵庫の扉を開けたままで考え込んでたんだ。 食材を取り出していると数秒ズレて奏悟の携帯が鳴り響いたのだ。 誰からだ? 昼前だから着信があっても不思議ではないがけれど僕以外に休日なんかに会う友達はいないはずだ。 家族もあまり連絡はしないと言っていた。 僕は電話の相手が誰か分かっているはずなのに誤魔化している。 だってあんな泣き顔を見せられてそれが奏悟の付き合ってる相手だなんて認めたくない。 「うん。わかった。じゃあ、後でってもう来ちゃったの?じゃあ今から行くよ。」 さっきまであんなに落ち込んでいた奏悟なのに目の前で嬉しそうに電話をしている。 それを僕は見つめていた。 「悪い。帰らなきゃいけない。今度またゆっくりと智明と話がしたい。朝食悪いな。」 「えっと、好きな相手?仕方ないよ迎えに来てるんだろ?僕とはまたゆっくりと話せば良いよ。親友なんだから気にするなよ。」 違う。 こんな、こんな事を言いたくないんだ。 行くなと本当は言いたいのにそんな幸せそうな顔をして笑われたら何も言えないじゃないか奏悟。 「ありがとな、また会社でな智明。」 「うん。気をつけてな奏悟。幸せになれよ。」 「おうっ、じゃあ。」 僕は何か言いたかったのに喉の奥が詰まる感じで声を発する事が出来なかった。 玄関を出て行く後ろ姿をぎこちなく笑って見送った。 いつもみたいに笑えるわけない。 けれど奏悟はそんな事も気付かないで嬉しいそうにドアを閉めたんだ。 嬉しそうな奏悟と悲しい僕。 もう開く事がないドアを眺めながら僕は壁に寄り掛ながら床へ崩れ落ちた。 ずっと開かないドアを眺め・・・・・。

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