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大切な 第9話

「キス?俺と智明が・・・・。」 「キスは良いんだけど・・・ちがっ、良くはないけれど“ゆう”って僕の事を呼んでたんだよね。聞いて良いか迷ったけれど言いづらいなら今聞いた事は忘れてよ。僕もキスを含めて忘れる。」 奏悟は目を見開き驚いた顔をして口元に手をやると今まで見た事の無い悲しみに満ちた表情に変わった。 一体何があったんだ奏悟。 けれど奏悟は黙り込んだままで何も言わないから聞いてはいけなかったんだと分かり僕は親友が話してくれる迄ずっと待つ事にした。 奏悟が話したくなったらいつか話してくれるはずだ。 それが明日か明後日それとも何年か先か分からないが親友でいる限りは僕は待つよ奏悟。 「取り敢えずリビングに行かないか?このまま玄関で話していてもあれだし何が飲み物を入れるよ。何が良い?」 「すまない。智明。」 「何を謝ってるの?酔っ払ってキスした事?それとも玄関で寝てしまい申し訳ないと思ったから?とにかく立てよ。」 奏悟は首をうな垂れ曲げた足の膝の上で両手を強く握りしめている。 悩んでるんだ奏悟。 きっと親友にも言い出せずに1人悩んであんな無茶な飲み方になったんだろう。 「勝手に温かなコーヒーを淹れるからな奏悟。僕が飲みたいからだけどね。落ち着いたらリビングに来なよ。」 「分かった。」 本当に出会ってから奏悟のあんな顔を初めて見た。 仕事が上手くいかなかったり上司や先輩から嫌味を言われても凛としていた奏悟をあんな顔をさせる人物。 なんだろ・・・この胸がモヤモヤしてチクリと痛むのは・・・・・。

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