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第9話「少女」
夏目たちは病院を後にして、近くの喫茶店へと向かった。それぞれ好きなものを注文して、一息ついたところで、須王と楓が夏目に視線を向ける。どこから話すべきか――夏目はじっくりと考えてから開口した。
「俺には、妹がいます。名前は夏目千歳。今年で中学生になります」
けれど、今年の三月に起きたトロントの爆破事件に偶然両親と一緒に居て、巻き込まれそこから行方が分からなくなっていた。辛うじて、死亡者リストには名前はなく、行方不明として報道された。妹の居場所を知ったのも、昨日の母親からの電話でただ『日本にいる』というだけのものだ。まさか、あのような状態になっているなどとは想像も付かなかった――ただ、生きていてくれたことだけが嬉しいと夏目は涙ながらに語る。楓は夏江にハンカチを差し出し夏目もそれを受け取った。
「学園側には、千歳ちゃんのことは追及できないから僕たちでどうにか探るしかなさそうだね」
須王は険しい顔つきでこれからどうすべきかを考えている。夏目はあの少女の痛々しい姿が脳裏から離れなかった。テロを起こした犯人への憎しみが募る。学園からの依頼の件については、須王から報告しておくことになり、今日は解散となった。
*****
翌日の放課後、夏目が生徒会に行くと既に他のメンバーは集合しており何やら楽しそうに談笑していた。どうやらもうすぐ始まる夏休みの予定について話し合いをしているようだった。長期休暇の際には必ず生徒会メンバーで集まって、旅行するのが恒例になっている。今もその相談をしているようだった。
「去年は生徒会長のご両親が所有している無人島に一週間行ったよねー」
「む、無人島!?」
楓が楽しそうに当時の話をしだすが、夏目と日浦は目を白黒させる。須王はどんな家の生まれなのだろうと二人で思考を巡らせた。今年の夏は、五反田の所有するペンションへ一週間ほど泊まりに行こうという話になっているようだった。
「五反田さんちもお金持ちなのか……」
「さすが生徒会長と副会長っすね……」
夏目と日浦はまた二人して驚く。そんな二人をよそに、日程と集合場所が須王から告げられた。話し合いを終え、それぞれ仕事へと戻る中、須王は夏目を呼び出した。隣の図書室はほとんど人がいない為、話をするにはもってこいだ。二人は図書室の奥の席に着き、向かい合った。
「昨日の件だけど、僕の方でも調べてみた」
「はい……」
「結果から言うと彼女は彰人の妹で間違いないよ。これは確かな筋から聞いた話だから信用して大丈夫」
「そう、ですか……」
学園側からは、千歳が目を覚ますまで、生徒会のメンバーで見舞いに行くことを告げられたことを夏目に話し、仕事としてだけでなく、夏目の妹だから行くのだという思いを須王は夏目に伝える。話し終えた二人は生徒会室へと戻る。その最中、須王は無言で夏目の頭を撫でるのだった。
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