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第10話「夏休み その1」

 照り付ける太陽、真っ青な空、真新しい緑――休みがやって来た。夏目はスポーツバックを持ち、リュックサックを背負い、山道を歩いていた。もうかれこれ三十分は歩いている。額からは引っ切り無しに汗が噴き出て、十分前にはそれを拭うのも面倒臭くなりやめた。まだ、木々のお陰で直接太陽を浴びていないだけましだがそれにしても暑い。夏目は目前を進む生徒会メンバーを見つめながら、この人たちの体力は底なしなのだろうか、と嘆いた。  夏休みが始まって次の日、約束通り五反田の両親が所有するペンションへと向かった。寮から五反田の母親が運転するミニバンに乗車し、二時間ほどかけてペンションのある山道までやって来た。途中、車では通れない道があるとのことで、今こうして汗水垂らしてペンションに向かっていると言う訳だ。  段々と道が開けてきた。ペンションはもうすぐそこらしい。夏目は安堵の息を吐きつつ、必死に足を動かす。開けた先には、屹立した建築物が鎮座している。夏目が思っていたよりも立派な造りで、その外観は西洋を彷彿とさせる。室内に入ると、フロントがありそこで受付を済ませてそれぞれの宿泊先へと向かうシステムの様だ。この一帯が五反田家の所有地らしいがペンション経営については友人一家に任せているらしかった。夏目たちはそれぞれ鍵を受け取り、経営者の主人の車で宿泊先へと向かった。  二、三分ほどでぽつぽつと洋風の建物が見えて来た。主人は車を止め、それぞれのペンションの部屋番号を説明してくれる。二人一部屋で泊まることとなったが、その組み合わせは前日にくじ引きで決まっていた。夏目はスポーツバックとリュックサックを持ち、五反田と連れ立って数個ある洋館の一つに足を踏み入れた。室内もこれまたゴージャスで、居間には暖炉があり、フカフカのソファーやダイニングテーブルが置かれていた。進んだ先のドアを開けると寝室になっており、セミダブルベッドが二つその存在を主張していた。他にも、バスルームも広々とした作りで何もかもが夏目には新鮮に映った。一通り探索を終え居間に戻ると、五反田がコーヒーを淹れているところだった。 「探索は終わったか?」 「あ、なんか俺一人ではしゃいじゃってすみません」 「初めてなんだろう。気にすることないさ」  そう言って、五反田は淹れたばかりのコーヒーを夏目に手渡す。コーヒーの香ばしい匂いが鼻孔をくすぐり、幸せな気分になる。夏目は砂糖とミルクをプラスし、ふうふうと冷ましてからコーヒーを啜った。 「この後の予定って決まってるんですか?」 「あぁ、祐がこの山にあるパワースポットに行きたいと聞かなくてな……」  やれやれ、と言う様に五反田は小さく息を吐いた。須王と五反田は小さい頃からの幼馴染で昔も良く須王の気まぐれに付き合わされたものだと、五反田は懐かしそうに目を細めている。  その時インターホンが鳴り響いて、夏目と五反田は反射的に体をびくつかせた。お互いに笑い合い、玄関へ向かうと他のメンバーたちが勢揃いしていた。須王はいつもの様子で、これからパワースポットに行くぞと喜色満面にあふれている。夏目たちは出掛ける準備を済ませ、ペンションを後にした。

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