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第2話

 朝食の準備をしていると、寝室の方からゴソゴソと音が聞こえた。どうやら目が覚めたようだ。寝ぼけているのか、不思議そうにつぶやく声が聞こえた。 「あれ……ここ……痛っ…………!」  両手に持っていた皿を机に置くと、尻を押さえてうずくまっている彼を横目で見た。彼は恨みがましい目をこちらに向けているが、どうにも動けないらしい。少しやりすぎたか。 「ううう……っ」  小さく唸って、頭を布団に突っ込んでいた。 「朝飯食わないのか?」  テーブルの前に腰を下ろし、タバコを吸いながら眺めていると、恨めし気に彼はこちらを睨みつけた。目に涙を浮かべて、うぐぐともう一度唸った。 「食べる……けどっ」  何とかしろと言いたいのか。裸のままだということに気づいていないらしく、彼はまだ身をよじって、布団の上で体をかがめていた。 「服着ないのか?」  せめて下着ぐらい履けよと言うと、顔を真っ赤にして床に手を伸ばした。うろうろとさまよう手に、放り出してあった下着を渡す。 「手、貸そうか?」 「…………っ」  うずくまりながら、ブンブンと頭を振る。心の内で葛藤しているようだ。プライドが許さないのか。しかし下着姿でプライドもなにもあったものではない。間抜けな姿をじっと見つめていたが、かたくなに顔を上げようとしないので、朝食をとるために机に戻った。 「じゃあ、勝手にしろ」  くわえていたタバコを灰皿に押し付けると、トーストをかじった。ちらりとこちらに目を向けて、ササキと目が合うと慌ててそらす。ぎゅうっと布団を握り締めて、震える声でつぶやいた。 「………………助けて」  ため息をつくと、立ち上がって寝室に入る。彼の細くて薄い体を抱え上げると、顔を真っ赤にして手足をばたつかせた。そして痛みに顔を歪めている。 「そういう事じゃ……!」  また目に涙を浮かべながら、屈辱に顔を真っ赤にして、ササキの体を殴る。昨日から思っていたが、こいつ非力すぎやしないか。若いとは言え成人した男が、軽々と抱え上げられるのもおかしい。そこそこ身長はあるのに、体重が追い付いていない。綺麗な顔をしているから女の様にも見える。 「歩いたら痛いだろ。座っても痛いだろうけど」  数歩程の距離を彼を抱えて歩く。 「あんたのせいだろ!」 「そうだけど。じゃあ飯食わないのか?」 「食べるよ!」  食べるのか。戦っていたプライドはどうやらペラペラだったようだ。ふーっふーっと猫のように威嚇しながらも、座布団の上に座らせてやると、トーストを手にとった。  もぞもぞと体を揺らしながら、どういう体勢をとれば痛みがましになるのかを探っているようだ。何度か体をひきつらせながら、トーストからは手を離さない。よっぽど腹が減っているのか。昨日あれほど食べたのに。本当に、ろくに飯を食っていなかったのかもしれない。

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