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第2話-3

 あいつ上着持ってなかったような……。  急に冷え込んだ空気を吸い込みながら、コートの前を押さえて歩く。あんな事をされて戻ってくるはずもないだろうが、上着ぐらい渡してやればよかった。ササキは深いため息をついて、自販機で温かいコーヒーを二本買った。なんだか、彼が戻ってきていることを期待しているようで、馬鹿みたいだ。  マンションのエレベーターから降りると、目を疑った。部屋の前に彼が座りこんでいる。震えながら、息を手に吹きかけていた。ササキに気づくと、彼はまたヘラヘラと笑った。いったん外にでるとリセットされるのか。 「おかえり」 「……何してるんだ」 「今日も泊めてくれるんでしょ?」  ササキはは大きくため息をつく。 「痛い目にあわされただろ。少しは警戒しろよ」 「行くとこないから」  とりあえず部屋の中に入れて、暖房をつける。 「いつからあそこにいたんだ?」 「えっと……朝から」 「は?」 「あはは。千円じゃ行けるとこなくて」 「屋内で座っていられる場所だってあるだろ?」 「あー、そうだね」 「お前馬鹿なのか?」 「あはは。よく言われる」  馬鹿なのか。  黙って缶コーヒーを渡すと、さっきとは違う笑顔を見せた。 「ありがとう」

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